早晩いつか)” の例文
さるによつてやつがれは、常に和殿を貴とみ、早晩いつかよしみを通ぜんとこそ思へ、いささかも仇する心はなきに、何罪科なにとがあつて僕を、かまんとはしたまふぞ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
その天稟てんぴんの能力なるものは、あたかも土の中に埋れる種の如く、早晩いつか萌芽をいだすの性質は天然自然に備えたるものなり。
家庭習慣の教えを論ず (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その夢は早晩いつか醒むべし。トロアスのつはもの黒き蟻の群の如くえものを載せて岸に達せば、その夢いかでか醒めざることを得ん。
しか博識ものしりの仰しゃる事には、随分拵事こしらえごとも有って、こと/″\あてにはなりませんが、出よう/\と云う気を止めて置きますと、其の気というものが早晩いつか屹度きっと出るというお話
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
けれども早晩いつか片づけなければならないお貞さんの運命に一段落をつけるのも、やはり父や母の義務なんだから、彼らは岡田の好意を喜びこそすれ、けっしてそれを悪く思うはずはなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その頃露伴が予にうには、君は好んで人と議論を闘わして、ほとんど百戦百勝という有様であるが、善くおよぐものは水におぼれ、善くるものは馬よりつるわけで、早晩いつか一の大議論家が出て
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
でも後で私しを世話して置けば早晩いつかお前が逢い度く成て帰ッて来るだろうッて、のろい事はを掛てるネ日本人にそうして今は何所に、アう本郷に奉公、ア爾う可愛相に、金起さんも一緒かえ
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「実は早晩いつかこんな事が出来はしないかと、うから思つてゐましたよ。」
早晩いつか心の澄む境へ己が導いて行って遣る。
お前のお娘のうみまごありて幼年にはてられしやは又如何なる人の子にてありしぞととふに婆は彌々いよ/\涙にくれながらも語り出るやうわしさはといふ娘あり御城下の加納將監樣といふへ奉公に參らせしが其頃將監樣しやうげんさまに徳太郎樣と申す太守樣たいしゆさまの若君が御預おあづかりにてわたらせ給へり其若君が早晩いつか澤の井に御手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
くにと申す女中がございまして、器量人並にすぐれ、こと起居周旋たちいとりまわし如才じょさいなければ、殿様にも独寝ひとりねねや淋しいところから早晩いつか此のお國にお手がつき、お國は到頭とうとうめかけとなり済しましたが
「さな嘆きそ。世は七顛八起ななころびやおきといはずや。心静かに養生せば、早晩いつかいえざらん。それがし身辺かたわらにあるからは、心丈夫に持つべし」ト、あるいはののしりあるいは励まし、甲斐々々しく介抱なせど
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
これのみならず忌まはしくも、又趣なきはこゝの拵へざまの全體なるべし。僧は祈の詞を唱へつゝ行くに、われはひたと寄り添ひて從へり。僧は唱へをはりていふやう。われも早晩いつかこゝに眠らむ。
加之しかのみならず洞のうちには、怎麼なる猛獣はんべりて、怎麼いかなる守備そなえある事すら、更に探り知る由なければ、今日までかくは逡巡ためらひしが、早晩いつか爾を捕へなば、糺問なして語らせんと、日頃思ひゐたりしなり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
終の圖に筆を染むる時、姫の宣給のたまふやう。かく麓より眺むれば、この落ちたぎつ水の勢は、早晩いつか巖石を穿ち碎き、押し流して、その上なる人家もそこひなき瀧壺に陷らずやと怖しく思はると宣給ふ。われ。