ほど)” の例文
梯子はしごやう細長ほそながわくかみつたり、ペンキぬりの一枚板まいいた模樣畫もやうぐわやう色彩しきさいほどこしたりしてある。宗助そうすけはそれを一々いち/\んだ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
命の恩人になりすまして、この兵馬の許婚を奪ひ取つた——義理にからんでの惡企み、私如き智慧のない者では、ほどこしやうもなかつた——
見る時は不便心が彌増いやまほどこすことのすきなる故まうけの無も道理ことわりなり依て六右衞門も心配なしいつそ我弟が渡世とせい先買さきがひとなりはぢ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
こいつらに嬲られようとどうされようと、いってみればほどこしくらいのもの、悲しくも恐ろしくもありゃアしません。委かせてじっとしておいで遊ばせ。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
家庭では一人一人に対して充分の薫育くんいくほどこす事が出来る。家庭で充分に品性を養って学校ではただ物の仕上をしてもらう位に心得ていなければならん。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
人に善をほどこすといふ折はたれにも随分有るもんです。さうして其折を外さず用ゐて行けば、キツト人を助けられるもんです。つまりわたしたちの心一ツで黄金機会が出来るんですよ。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
紳士は其儘そのまゝかきいだきて、其の白きものほどこせる額を恍惚うつとりながめつ「どうぢや、浜子、嬉しいかナ」と言ふ顔、少女はこびたゝへしに見上げつゝ「御前ごぜん、奥様に御睨おにらまれ申すのがこはくてなりませんの」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
朝夕の飯米菜蔬さいそ、我食うべきものをこじきにほどこし、その身は主家の残れると、または流しの隅に網を釣りてたまりし物を
善は行い難い、徳はほどこしにくい、節操は守り安からぬ、義のために命を捨てるのは惜しい。これらをあえてするのは何人なんびとに取っても苦痛である。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(河東節の門附けなんて、およそ世間にあるものではない。しかもほどこしなどしそうもない、武家屋敷の窓下などに立って、弾いているとはいよいよ変だ)
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
判斷はんだん成敗せいはいさすに其人の年れい月日時を聞てを立かんがへをほどこし云ふ事實にかみの如く世の人の知る處なり扨翌日にも成りければ靱負ゆきへは其身の吉凶きつきようを見ることゆゑ沐浴もくよくして身體しんたい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
言つて居ますが、實は一代に仕上げた身上しんしやうで、慈悲善根をほどこしながら、萬といふ金を溜めたんだから、大したものでせう
しかしておのれの好むところはこれを人にほどこして可なる訳だから、自殺を一歩展開して他殺にしてもよろしい。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ほどこす手段はない! 今より同勢引きまとめ、海上の船へ乗り移る。さて求林斎!
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『百兩盜んで五兩十兩を貧乏人にほどこし、あとの九十何兩を飮み食ひや惡遊びに費つて、義賊面もねえものだ』
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
入場券は象牙となまりと二通りあつて、いづれも賞牌メダル見たやうな恰好で、表に模様がしてあつたり、彫刻がほどこしてあると云ふ事も聞いた。先生は其入場券のあたひ迄知つてゐた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ぶんに過ぎた慈悲善根じひぜんこんほどこして、その日/\を豊かに暮して居るのに、少しも困る樣子は無いばかりでなく、益々富み榮えて、『あれは金のる木でも植ゑてゐるのだらう』
残念ではあるがかかる小人しょうじんを敵にしてはいかなる東郷大将もほどこすべき策がない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
寄附寄進からほどこしごと、人樣におくれを取つたことはない筈で、自慢ではないが、あたらし橋の修覆しゆふくも、ツイこの間私が一手に引受け、人樣には迷惑はかけなかつた筈でございます