或年あるとし)” の例文
三八さんぱちといへる百姓は一人ひとりの母につかへて、至孝ならぶものなかりける。或年あるとし霜月しもつき下旬の頃、母たけのこしよくたきよしのぞみける。
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
三社祭さんじやまつりをりいと或年あるとし踊屋台をどりやたいへ出て道成寺だうじやうじを踊つた。町内一同で毎年まいとし汐干狩しほひがりく船の上でもおいとはよく踊つた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
或年あるとしの住僧此塔の出たる時天を拝していのる、我法華ほつけ千部読経どくきやうぐわんあり、今一年にしてみてり、何とぞ命を今一年のばし玉へと念じて、かの塔を川中のふちなげこみたり。
島根県の西部海上、石見いわみ高島の鼠の話が、本居もとおり先生の『玉勝間たまかつま』巻七に出ている。この島鼠多く、人をも害することあり、或年あるとし浜田より人をつかわし駆除せしめらるるもこうしとある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それおなじに日本国中にほんこくちゆう何処どこともなう、或年あるとし或月あるつき或日あるひに、ひと行逢ゆきあはす、やまにもにも、みづにもにも、くさにもいしにも、はしにもいへにも、まへからさだまるうんがあつて、はなならば、はなてふならば、てふ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
或年あるとしの冬休み、私は友人の林一郎はやしいちろうから一通の招待状を受け取った。
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
して取續とりつゞたれども或年あるとし三月節句せつく前金二十兩不足にて勘定かんぢやうたゝざれば是非なく向ふの加賀屋へいた亭主ていしゆあひて此節句前二十兩不足ゆゑ問屋とひやはら行屆ゆきとゞかざるに付何卒節句過まで金子借用致したきむね只管ひたすらたのみければ此四郎右衞門は情有者なさけあるものにて夫は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
或年あるとしの住僧此塔の出たる時天を拝していのる、我法華ほつけ千部読経どくきやうぐわんあり、今一年にしてみてり、何とぞ命を今一年のばし玉へと念じて、かの塔を川中のふちなげこみたり。
何かにつけて亜米利加アメリカに関することが胸底に往来する折からでもあろう。不図ふとわたくしは、或年あるとしの春、麻布広尾なる光林寺の後丘に米国通訳官ヒュースケンの墳墓をたずねたことを思出した。
墓畔の梅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)