うき)” の例文
お通はむなく死力を出して、瞬時伝内とすまいしが、風にも堪えざるかよわき婦人おんなの、うきにやせたる身をもって、いかで健腕に敵し得べき。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
始終のうきやつれたる宮は決してうつくしき色を減ぜざりしよ。彼がその美しさを変へざる限は夫の愛はくべきにあらざりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
聞きたるに叔母お早に相違なく且つ先年家出せし後此娘お梅と云るをまうけ當時は此宿に足をめ人に雇はれうき年月を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
われらごとき大飲家は再従兄弟ふたいとこまでも飲みはしないかと疑わるるごとく、蜥蜴群に毒物と言わるるものが多いからこれもうきにはれぬわが身なりけりで
風なく波なく、さしくるうしおの、しみじみと砂をひたす音を翁はまなこ閉じて聴きぬ。さすらう旅のうきもこの刹那せつなにや忘れはてけん、翁が心、今ひとたび童の昔にかえりぬ。
たき火 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
まゝならぬ世の習はしは、善きにつけ、惡しきにつけ、人毎ひとごとひとには測られぬうきはあるものぞかし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
生憎あいにく、細君が留守であったので、うきを別つべき相手はなく、時々門の方をおずおず眺めては、今にも誰かが、息せき切ってせ込んで来はしないかと心配するのであった。
初往診 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
うきよ思よ一春の
天地有情 (旧字旧仮名) / 土井晩翠(著)
懊悩おうのうとしてうきへざらんやうなる彼の容体ようたい幾許いくばくの変も見えざりけれど、その心に水と火の如きものありて相剋あひこくする苦痛は、ますます募りてやまざるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かれ煙草たばこたしなむにあらねど、うきを忘れ草というに頼りて、飲習わんとぞ務むるなる、深く吸いたれば思わずせて、落すがごとく煙管をて、湯呑に煎茶をうつしけるが
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
思ひ出うきつもりてもしや又わづらひもせば何とせん思へばまづしくうまれ來て何にも知ぬ我が子に迄あかぬ別れをさするかやとをとこなみだ足元あしもと踉々しどろ蹌々もどろに定めかね子故に迷ふやみの夜に麹町を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
跡にて人の噂に聞けば、世を捨つるまで己れを慕ひし御邊の誠に感じ、其身も深草の邊に庵を結びて御邊が爲に節を守りしが、乙女心のうきに耐へ得で、秋をも待たず果敢はかなくなりしとかや。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
尊ぶとこそ云へり今一錢二錢の袖乞そでごひしても心きよきがいさぎよし人間萬事塞翁が馬ぢやまたよきはるに花をながめる時節もあらん斷念あきらめよと夫婦互に力をあひうき物語ものがたりに時移りしにやがねぐら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)