御情おなさけ)” の例文
御情おなさけだよ、頂戴しな。」とせたるてのひらに握らすれば、屠犬児は樹にうおを獲たる心地、呆れてくぼめる眼をみはりぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれども、それは、ただ編輯者へんしゅうしゃ御情おなさけで誌上にあらわれただけで、一銭の稿料にもならなかったらしい。自分が彼の生活難を耳にしたのはこの時である。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
結ぶ時とぞなりにき澤の井ひそかに徳太郎君にむかひかね/\君の御情おなさけを蒙りうれしくもまたかなしくいつか御胤おたね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かれかれこれこれかげになりてのお指圖さしづ古參こさん婢女ひとあなどらず明日きのふわすれしやうらくになりたるはじようさまの御情おなさけなり此御恩このごおんなんとしておくるべききみさまにめぐはゞ二人共々ふたりとも/″\こゝろ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もっともこれは逆桟道さかさんどうたたりだと一概に断言する気でもない、さっきから案内の初さんの方で、だいぶ御機嫌ごきげんが好いので、相手の寛大な御情おなさけにつけ上って
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一伍一什いちぶしじふ物語り右に付私し儀主人しゆじんの身代り御仕置に相成樣願しかど夫さへ御取上とりあげなければ此上は何卒貴僧あなた樣の御慈悲御情おなさけで九助が一命御助おんたすけ成れて下さらばまことに有難う御座りますと申せば可睡齋すゐさいきゝてイヤ佛道ぶつだうは人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おもひでのれなるに此身このみあるゆゑじようさまのこひかなはずとせばなんとせん退しりぞくはらぬならねど義理ぎりゆゑくと御存ごぞんじにならば御情おなさけぶかき御心おこゝろとしてひともあれわれよくばとおほせらるゝものでなしらでも御弱およわきお生質たちなるに如何いかにつきつめた御覺悟おかくご
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
やっとの事で安さんの御情おなさけで出て来れば、「よく路が分ったな」と空とぼけている。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
せておまへさまは何故なぜそのやうに御心おこゝろよわいことおほせられるぞ八重やへ元來もとより愚鈍ぐどんなり相談はなしてからが甲斐かひなしとおぼしめしてかれぬ御使おつかひも一しんは一しん先方かなたさまどのやう御情おなさけしらずでらうともつらぬかぬといふことあるやうなしなにともしておのぞ屹度きつとかなへさせますものを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)