御徒町おかちまち)” の例文
いくらか微酔機嫌ほろよいきげんでもあったのでございましょう、ともをつれずに、たった一人で下谷の御徒町おかちまちの方へお帰りになったのでございますよ
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
秋元侯あきもとこうを背景に、下谷御徒町おかちまちに、堂々たる門戸を張っていたが、そのほかの群小刀鍛冶に至っては、無数と云っていい程あった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日も暮れ六つに近い頃に、ひとりの中間体ちゅうげんていの若い男が風呂敷づつみを抱えて、下谷したや御徒町おかちまち辺を通りかかった。そこには某藩侯の辻番所つじばんしょがある。
西瓜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ごうの深いのは癒らないとされております。例えば御徒町おかちまちの伊勢屋の利八さん、これは喘息ぜんそくがどうしても治らず、先達様をうらんでおりました」
すべ偐紫楼にせむらさきろうと自ら題したこの住居すまいのありさまは、自分が生れた質素な下谷したや御徒町おかちまち組屋敷くみやしきに比べてそも何といおうか。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
下谷御徒町おかちまち下総屋しもうさやという薪炭しんたん商に奉公したが、半年ばかりで暇を取り、長者町二丁目の徳田石順の家へ移った。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
れの是れのと云って居りますと、折悪しく其の晩養子武田重二郎は傳助でんすけと云う下男を連れて、小津軽こつがるの屋敷へ行って、両国を渡って帰り、御徒町おかちまちへ掛ると
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
自動車は十二時過ぎの夜半の街衢まちを千束町の電車停留所を左にカーヴし、合羽橋かっぱばし菊屋橋きくやばしを過ぎて御徒町おかちまちに出で、更に三筋町みすじまちの赤い電灯に向って疾走して行きました。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
今はここからあまり遠くもない下谷御徒町おかちまちに、ささやかな町道場とやらを開いてとのことでござりまするが、そのご門人衆のひとりの姪御めいごさんとやらが買ったしごきの中に
行く手も後方もピカピカと、雲をつんざく稲妻に囲まれて到頭進退きわまって、御徒町おかちまちで電車を降りて、広小路ひろこうじの映画館へ飛び込んだら、途端にバリバリズシーン! と、一発落下した。
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
今の楽山堂らくさんどう病院の所から下谷したや御徒町おかちまちにきれ、雁鍋の背後へ出ようというのですから、七軒町しちけんちょう酒井大学さかいだいがく様の前を通り西町の立花たちばな様の屋敷——片側は旗本と御家人ごけにんの屋敷が並んでいる。
本郷に移り下谷に移り、下谷御徒町おかちまちへ移り、芝高輪たかなわへ移り、神田かんだ神保町じんぼうちょうに行き、淡路町あわじちょうになった。其処で父君を失ったので、その秋には悲しみの残る家を離れ本郷菊坂町きくざかちょうに住居した。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
下谷御徒町おかちまちにこれも名代の大芋屋、主人は通称芋繁で通った奥村繁次郎氏、いつの間にか古書に趣味をもって有名の古書通、なかんずく食物の研究に熱心で『食類辞典』の著もあり
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
下総から東京に出て、次兄が医院を開業していた下谷の御徒町おかちまちに、身を寄せていたころの話であるが、私は暇にあかせてよく古道具屋を歩き回っては、短冊を買いあさったものである。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
下谷区御徒町おかちまち二丁目××番地といふのであつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
きょうの役目をすませて、大原が下谷したや御徒町おかちまちの組屋敷へ帰った時には、このごろの長い日ももう暮れ切っていた。
鐘ヶ淵 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「無礼をするな、拙者は御徒町おかちまちの島田虎之助じゃ、はたいならば時を告げてきたれ、恨みがあらばそのよしを言え」
菊屋橋きくやばしのかけられた新堀しんぼりの流れ。三枚橋さんまいばしのかけられていた御徒町おかちまち忍川しのぶがわの如き溝渠である。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ついでだからというので、御徒町おかちまちの経師屋へまわり、主人の茂三郎に会った。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
都合上御徒町おかちまちへ転居したのであったが、早々大病をしたりして、この家は縁喜のよくない家になって家内かないのものらが嫌がりましたが、どうやらその年の秋になって病気も全快、押し詰まってから
蠣殻町に居たのだが、越して新らしく此の頃建った家を借りて、それが今御徒町おかちまち一丁目の十六番地へ葉茶屋を出しました、松山園まつやまえんとかいう暖簾のれんを出して、亭主おやだまの方が坊ちゃん育ちの善い人だから
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さて、八五郎が案内した二軒目は、御徒町おかちまちの井筒屋久太郎でした。
銭形平次捕物控:274 贋金 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
どこをどうして来たか机竜之助は、その日、夕陽ゆうひの斜めなる頃、上野の山下から御徒町おかちまちの方を歩いていました。
西岡は下谷したや御徒町おかちまちの親戚をたずねて、その帰り途に何かの買物をするつもりで御成道おなりみちを通りかかると、自分の五、六間さきを歩いている若い娘の姿がふと眼についた。
離魂病 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
竹渓は晩年下谷御徒町おかちまちに住した。その子枕山はなか御徒町に詩社を開き、鷲津毅堂もまたその近隣きんりんを下して生徒を教えた。わたくしがこの草稿そうこうを下谷叢話と名づけた所以ゆえんである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ツイこの御近所の御徒町おかちまち四丁目に戸川の親類が荒物屋あらものやをしていますが、ひょっとすると、其処そこへ貰われて行ってるかも知れません。私が手紙を附けて上げますから、誰かお弟子を使いに上げて下さい
御徒町おかちまちの」と男はあえぎながら云った、「——井田の若先生です」
「下谷の御徒町おかちまちに島田虎之助という先生がある、流儀は直心陰じきしんかげ、拙者が若いうちからの懇意こんいで、今でも折々は消息たよりをする、この人はまさに剣道の師たるべき達人じゃ」
「お父さん見たようになっちゃ駄目だ。御徒町おかちまちのおじいさんも江戸ッじゃないよ。」
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
無事に御徒町おかちまちの家へ帰って、伊四郎は濡れた着物をぬぐ間もなく、すぐに懐中を探ってみると、紙の中からはかの一片の鱗があらわれた。行灯の火に照らすと、それは薄い金色に光っていた。
異妖編 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
御徒町おかちまち転宅ひっこしまして病気もあらかたなおりました。
あの御徒町おかちまちの島田虎之助先生とも言われるお方が、人手にかかってお果てなさるとは……
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「お照、お前は今どこにいるのだ。御徒町おかちまちのおじいさんの処にいるんじゃないのか。」
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「下谷の御徒町おかちまちにて、島田虎之助と申しまする」