弥次馬やじうま)” の例文
旧字:彌次馬
女幽霊の現われたところには、かならず器物の破壊がおこり、何か物がぬすまれ、そしてあつまってきた弥次馬やじうまがけがをするのであった。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
箇様に悪口をつき申さば生を弥次馬やじうま連と同様に見る人もあるべけれど、生の弥次馬連なるか否かは貴兄は御承知の事と存候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「なに、もうすぐぶっ倒れちまうにちげえねえ。もうやがておしめえだよ、皆の衆!」と群衆の中から一人の弥次馬やじうまが言った。
見物の弥次馬やじうまは笑ったが、生徒たちは真面目まじめで先生のいう通りに怒鳴った。そうすると泥棒は体をかくしたまま、戸の上から鍋だけさしだした。
しかし、山羊は騒々しい弥次馬やじうまたちに、けろりとした顔をふりむける。そして、澄んだ細い眼でささやきかけるのである。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
弥次馬やじうまがさけびながら、車といっしょにかけだします。それにつれて犬がほえる。歩いていた群衆がみな立ちどまってしまうというさわぎです。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「迷亭のは聴いているのか、ぜ返しているのか判然しない。寒月君そんな弥次馬やじうまに構わず、さっさとやるが好い」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おまけにこっちは、応援の青年団やら好奇ものずき弥次馬やじうまやらでやたらに人数が多いから、ざわめくばかりでも先はいちはやく物音を聞きつけて逃げてしまう。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
よろこびをうけてむくいることを知らざるは、人間にあらず馬なり、弥次馬やじうまなり。さあさあ弥次馬はあとへ引っこんで金持かねもちだけ前のほうへでてくださいよ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが面白いことには、その七、八軒目から、もう老人の後には、用のない弥次馬やじうまがうんといて来て、それらが老人が射的屋へ入るたびに、コソコソと
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
パリーは弥次馬やじうまに初まり、浮浪少年に終わる。この二つは他のいずれの都市にも見られないものである。
「内藤君、そんなに弥次馬やじうまをつれてきてもだめだ。一人ひとりと一人でやるんだ。きみ一人こっちへ出たまえ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
街路や原っぱで死んで、弥次馬やじうまたちに死骸しがいをいじくり廻されるのは、何としても、いやだったんです。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
とうとう避難者や弥次馬やじうま共の間にはさまれて、身動みうごきもならぬようになる。頭の上へは火の子がばらばら落ちて来る。りよは涙ぐんで亀井町の手前から引き返してしまった。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
夜がけるにつれて、弥次馬やじうまは一人へり二人へって、詰所には当番の四人だけが残った。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
とばっちりを食って斬られてはかなわないから、通行人のむれがサッと左右にわかれたせまい無人の境を、弥次馬やじうまに追われて一散に駈けて来るのを見ると——つづみの与吉である。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と唄い終ったが、末の摘んで取ろの一句だけにはこちらの少年も声を合わせて弥次馬やじうま出掛でかけたので、歌の主は吃驚びっくりしてこちらをかしてたらしく、やがて笑いを帯びた大きな声で
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
アメリカだって弥次馬やじうまのいない筈はないだろう。尤も日本人でも、火事などちょっと振り向くだけで、電車に乗りこみ帰宅を急ぐ人も多い。私が性来の弥次馬なのである。歴史の本読む。
鎮圧部隊がまだ出動してないころで、弥次馬やじうまがいっぱい詰めかけていた。巡査の姿は見かけないにもかかわらず、巡査にまるで遮られているかのように、人々はおのずと一線を画していた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
それに江戸名物の弥次馬やじうまが面白がってくっついて飛び出す。
現場へ飛びだした弥次馬やじうまたちが、後刻自宅へ引取ってみると、誰の身体も下半分が真青に染っていて、洗っても洗っても取れないというので
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
終に記者と士官とが相談して二、三人ずつの総代を出して船長を責める事になった。自分も気が気でないので寐ても居られぬから弥次馬やじうまでついて往た。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
なんせ、あなたに自分の身の上話をしたのも、今さら言わずとも知り抜いているそこらの弥次馬やじうまどもに、おのれの恥がさらしたいためじゃございません。
「可哀そうに、無礼打ぶれいうちだ、浪人に何かして斬られるところだ」などと、もう口々にいって、それを見かけたあたりの弥次馬やじうまが、ワラワラと寄って人垣を作る。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
事件を聞きつけて集った弥次馬やじうまの大群が、テントのまわりをグルッと遠巻きにして見物しているのだ。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と叫んで高谷君の足を取ろうとした横田生は細井君になぐりたおされた上に、弥次馬やじうまの足げに会って、いち早く逃げだした。篠崎生と小川生はこれに気をのまれて手出しがならない。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
土堤どてを走る弥次馬やじうまは必ずいろいろの旗をかつぐ。担がれて懸命にかいあやつるものは色に担がれるのである。天下、天狗てんぐの鼻より著しきものはない。天狗の鼻は古えより赫奕かくえきとして赤である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さすがの弥次馬やじうまも舌をふるってしまいました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのあとから、真夜中ながら弥次馬やじうまのおしよせてくる気配けはいがした。私は弥次馬に追越されたくなかったので、驀地まっしぐらに駈けだした。今度は大丈夫走れるぞと思った。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼は黒山の様に群がった弥次馬やじうまのうしろから、じっと深山木の死体に目を注いでいた。死体を運んでいる時にも、私は絶えずうしろの方にもののけの様な彼の気配を感じていた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すわと、弥次馬やじうまは、うしおのごとくたちさわいだ。——と、その群集のなかから、まじろぎもせずに、朱柄の槍先をみつめていた白衣びゃくえ六部ろくぶと、ひとりの貴公子きこうしふうの少年とがあった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弥次馬やじうまの中には覚えず逃げ出したものがあった。やはり堀口生は恐れられている。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
砲手はこれだけで事足るのだが、その周囲附近には弥次馬やじうま兼援兵が雲霞うんかのごとく付き添うている。ポカーンと擂粉木が団子にあたるや否やわー、ぱちぱちぱちと、わめく、手をつ、やれやれと云う。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
不意の椿事ちんじに驚いて、先を争って帰ったのであろう。僅かに物好きな弥次馬やじうまが五六人、劇場事務所の人々などが、曲者が屋根裏に逃げ込んだと聞いたのか、舞台の方へ走っている。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と——蛾次郎も卜斎の視線しせんにならってその方角ほうがくへ目をやってみると、竹矢来たけやらいの一かく、そこはいまあらかたの弥次馬やじうま獄門台ごくもんだい掲示けいじ高札こうさつを見になだれさったあとで、ほのあかるい夕闇ゆうやみに、点々てんてん
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある中年の商人は、夜、東海道線の踏切を通って、無残な女の轢死体れきしたいを見たが、まだ弥次馬やじうまが集まって来ない、たった一人の時、妙な洋服男が死体の側をウロウロしているのを見たという。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いやもうまるでお祭り以上な弥次馬やじうま騒ぎ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう大分弥次馬やじうまが出ていて、あの古道具屋が休憩所みたいになってしまったのだから、犯人の逃げ出す暇はなかった筈ですが、まさかあの老人達が共犯者で犯人をかくまったと思えませんからね
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)