差紙さしがみ)” の例文
冥府の役人からこういう差紙さしがみを貰って来たのだぞといって、眼のさきへ突き付けたら、先生もおそらく真物ほんものだと思って驚くでしょう。
ちょうど、そこへ会所の使いが福島の役所からの差紙さしがみを置いて行った。馬籠まごめ庄屋しょうやあてだ。おまんはそれを渡そうとして、おっとさがした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
上将軍よりのお手判てはん差紙さしがみでもを持参ならば格別、さもなくばたとい奉行本人が参ったとて、指一本指さるる主水之介ではない。
螻蟻ろうぎの一念は天へもつうずとの俚諺りげんむべなるかな大岡殿此度このたび幸手宿三五郎つまふみの申立をきかれ武州こう鎌倉屋金兵衞方へ差紙さしがみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
すると、大岡様は、八寺の坊主へ差紙さしがみをつけて、白洲へならべ、朝から夕方まで、調べもせずに待たせたままにしておいた
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下谷稲荷町の美濃屋茂二作みのやもじさくと其の女房およし媒妁なこうど同様に周旋をしたということを聞出しましたから、早速お差紙さしがみをつけて、右の夫婦を呼出して白洲を開かれました。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
奉書到来と云う儀式で、夜中やちゅう差紙さしがみが来たが、真平まっぴら御免だ、私は病気で御座ござるといって取合わない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
はたして翌日若年寄から紋太郎へ宛てて差紙さしがみが来た。恐る恐る出頭すると特に百石のご加増があり尚その上に役付けられた。西丸詰め御書院番、役高三百俵というのである。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ところが、そうでないんだ。お前さんのことで、今朝方、自身番から差紙さしがみが来たんだ」
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
十月の十一日に宮内省から御用これあるに付き出頭すべしという差紙さしがみが参りました。自分には何んの御用であるか一向当りが附かないが、わるいことではあるまいと思っておりました。
またお差紙さしがみかと開いてみると、「お油御用あぶらごよう精励せいれいでお上も満足、今後とも充分気をつけて勤めますよう?——」言わば褒状ほうじょうである。大岡様からそっと出たものだ。一計といったのはこれである。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
はがき一枚の差紙さしがみが来てものこ/\出かけて行かねばならなかった話。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
雲哲 なるほどさう云へば、お奉行所からの差紙さしがみで、大屋さんと彦三郎さんは今朝早くから數寄屋橋へ出て行つたさうだ。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「外は風雨しけだというのに、内では祝言のしたくだ——しかしこのお差紙さしがみの様子では、おれも一肌ひとはだ脱がずばなるまいよ。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
呼出よびいだすべしと差紙さしがみに付町役人七助を召連めしつれ罷出まかりいでければ大岡殿何歟なにかおぼさるゝ事ありて此日は吟味ぎんみもなくおつ呼出よびいだすまで七助梅は家主へあづけると申付られけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
罪跡ざいせきといってもすこぶる不明瞭でただ単に「公務怠慢」というだけな差紙さしがみなのだ。そこで即時これをまた滄州そうしゅう苦役場くえきばの方へ七年の刑期付きで送りつけた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、それは普通の場合である。意味ありげな差紙さしがみなぞを受けないで済む場合である。今度はそうはいかなかった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
みぎ文體ぶんてい也ければたゞちに麹町三丁目町醫師村井長庵呼出よびだしの差紙さしがみを札の辻の町役人へ渡されければ非番ひばんの家主即時そくじに麹町の名主の玄關へ持參なし順序じゆんじよ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
滄州牢城の牢営長は、公文の差紙さしがみを見た日すでにこうつぶやいた。そしてなお、じっさいの人間を白洲しらすで見るにおよび、いちばいその骨柄こつがらに惚れ込んだ容子ようす
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠国おんごく同士の約束は甚だ不安のようではあるが、義理の固い才蔵は万一自分に病気その他の差し支えがある場合には、差紙さしがみを持たせて必ず代人をのぼせることになっているので
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「半蔵さま、福島からお差紙さしがみ(呼び出し状)よなし。ここはどうしても、お前さまに出ていただかんけりゃならん。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一 明朝、寝込みに、或いは都合によって夕刻、すべての証拠がため整い次第に、東儀与力自身、奉行直筆じきひつ差紙さしがみをふところにして、富武五百之進いおのしんの屋敷に赴き、塙郁次郎を御用拉致らちすること
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ようやく道中奉行からの差紙さしがみで、三人の庄屋の出頭する日が来た。十一屋の二階で、半蔵は連れと同じように旅の合羽かっぱをぬいで、国から用意して来た麻の𧘕𧘔かみしもに着かえた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
景蔵は、これから木曾福島をさして出掛けるところだという。聞いて見ると、地方じかた御役所からの差紙さしがみで。中津川本陣としてのこの友人も、やはり半蔵と同じような呼び出され方で。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)