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寂莫
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せきばく
ふりがな文庫
“
寂莫
(
せきばく
)” の例文
聞く者の耳も妙に変っている。この「オーイ」「オーイ」の応答が
杜絶
(
とだ
)
えると、自分の心臓の鼓動が高く響くだけが気になる
寂莫
(
せきばく
)
である。
木曽御嶽の両面
(新字新仮名)
/
吉江喬松
(著)
その白さは、唯の白さでなく、
寂莫
(
せきばく
)
とした底の知れないような白さだった。見ているうちに、全身
顫
(
ふる
)
えて来るような白さだった。
千曲川のスケッチ
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
かつてはひとびとが大ぜい集まり盛観であったのに、今は人影もなく
寂莫
(
せきばく
)
としてしまった場所を歩くよりも深いわびしさを人の心に感じさせるものはない。
ウェストミンスター寺院
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
夜
(
よ
)
は暗く、ただ焚火の光の空を焦がすのみ。雨は相変らずショボショボと降り、風は雑草を揺がして泣くように吹く、人里離れし
山巓
(
さんてん
)
の
寂莫
(
せきばく
)
はまた格別である。
本州横断 癇癪徒歩旅行
(新字新仮名)
/
押川春浪
(著)
空も、木々も、雨後の空気も、すべてが彼には、昔見た夢の中の景色のような、懐しい
寂莫
(
せきばく
)
に
溢
(
あふ
)
れていた。
素戔嗚尊
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
▼ もっと見る
しかし概していえばわたしの住んでいるところは大草原のうえのように
寂莫
(
せきばく
)
としている。それはニューイングランドであるにおとらずアジアでありアフリカである。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
「
跟
(
つ
)
いておいで、この中だ。」と
低声
(
こごえ
)
でいった滝太郎の声も、
四辺
(
あたり
)
の
寂莫
(
せきばく
)
に包まれて、異様に聞える。
黒百合
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
出家後の天皇の消息をうかがうにつけても、私はそこに、至尊にして且つ一代の宗教芸術家とも申し上ぐべき御方の、残夢
寂莫
(
せきばく
)
たる晩年を思わないわけにゆかない。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
少し今、ガタという音で始めて気がついたが、いよいよこりゃ三尺地の下に埋められたと見えるテ。静かだッて淋しいッてまるで
娑婆
(
しゃば
)
でいう
寂莫
(
せきばく
)
だの
蕭森
(
しょうしん
)
だのとは違ってるよ。
墓
(新字新仮名)
/
正岡子規
(著)
雪が積って月光の下に広い
経帷子
(
きょうかたびら
)
のように白く横たわって
寂莫
(
せきばく
)
たるサルペートリエールの一郭、そのすごい大通りと黒い
楡
(
にれ
)
の並み木の長い列とを所々赤く照らしてる街灯の光
レ・ミゼラブル:06 第三部 マリユス
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
この村で一番と言はれて居る豪家N家の老主人は、年をとつて、ひどく人生の
寂莫
(
せきばく
)
を感じ出した。普通人にとつてかういふ時に最も必要なものは、老いと若きとを問はず異性であつた。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
信祝
(
のぶとき
)
は、
蒔絵
(
まきえ
)
した
黒漆
(
くろうるし
)
の大火鉢へかけた金網の上へ、背中を
丸
(
まろ
)
めながら、唇を
歪
(
ゆが
)
めたり、眼を閉じたり——それから
咳
(
せき
)
をしたり——咳は、
寂莫
(
せきばく
)
とした
小書院
(
こしょいん
)
一杯に反響して、けたたましかった。
大岡越前の独立
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
官兵衛の使いした十一月の末から十二月に通じて、三木の城は、実に、
寂莫
(
せきばく
)
としたものをひそめて、沈黙していた。もう寄手に撃つべき鉄砲の
弾
(
たま
)
すらないことは読めていた。けれど秀吉も今は
新書太閤記:06 第六分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ここで車を返して、私は彼女たちの
住居
(
すまい
)
の方へ足を向けました。もう、そう遠い道ではありません。期していたこととはいいながら、
寂寥
(
せきりょう
)
とも
寂莫
(
せきばく
)
とも、何ともかともいいようのない孤独さです。
墓が呼んでいる
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
寂莫
(
せきばく
)
たる深夜——ふかがわ富ヶ岡八幡の社地に、時ならぬ冷光、
花林
(
かりん
)
のごとく咲きつらなったのは丹下左膳、月輪軍之助、各務房之丞、山東平七郎、轟玄八、岡崎兵衛、藤堂粂三郎ら乾雲の一団が
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
葉子の心の周囲にそれまで響いていた音楽は、その瞬間ぱったり静まってしまって、耳の底がかーんとするほど空恐ろしい
寂莫
(
せきばく
)
の中に、船の
舳
(
へさき
)
のほうで氷をたたき
破
(
わ
)
るような寒い
時鐘
(
ときがね
)
の音が聞こえた。
或る女:1(前編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
捨
(
すつ
)
るとなると此の情世界が甚だ
寂莫
(
せきばく
)
最少し艶氣を
木曽道中記
(旧字旧仮名)
/
饗庭篁村
(著)
避暑の宿
寂莫
(
せきばく
)
として寝まるなり
七百五十句
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
寂莫
(
せきばく
)
を敵とし友とし
一握の砂
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
向
(
むこう
)
の隅に、
雛
(
ひな
)
の
屏風
(
びょうぶ
)
の、小さな二枚折の蔭から、友染の
掻巻
(
かいまき
)
の
裾
(
すそ
)
が
洩
(
も
)
れて、
灯
(
ともしび
)
に風も当たらず
寂莫
(
せきばく
)
としてもの寂しく
華美
(
はで
)
な死体が
臥
(
ね
)
ているのは、蝶吉が
冊
(
かしず
)
く人形である。
湯島詣
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
イヤに
寂莫
(
せきばく
)
とした景色である。
増長天王
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
荒物屋の
婆
(
ばばあ
)
はこの時分から
忙
(
せわ
)
しい商売がある、隣の医者が
家
(
うち
)
ばかり昔の
温泉宿
(
ゆやど
)
の
名残
(
なごり
)
を
留
(
とど
)
めて、
徒
(
いたず
)
らに
大構
(
おおがまえ
)
の癖に、昼も夜も
寂莫
(
せきばく
)
として物音も聞えず、その細君が図抜けて美しいといって
黒百合
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
あッという声がして、女中が襖をと思うに似ず、
寂莫
(
せきばく
)
として、ただ夫人のものいうと響くのが、ぶるぶると耳について、一筋ずつ髪の毛を伝うて動いて、人事
不省
(
ふせい
)
ならんとする、瞬間に異ならず。
伊勢之巻
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
寂
常用漢字
中学
部首:⼧
11画
莫
漢検準1級
部首:⾋
10画
“寂”で始まる語句
寂
寂寞
寂然
寂寥
寂滅
寂静
寂々
寂漠
寂滅為楽
寂々寥々