姦淫かんいん)” の例文
我我は盗賊、殺戮さつりく姦淫かんいん等に於ても、決して「黄金の島」を探しに来た西班牙人スペインじん葡萄牙人ポルトガルじん和蘭人オランダじん英吉利人イギリスじん等に劣らなかった。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
窃盜せつたう姦淫かんいん詐欺さぎうへてられてゐるのだ。であるから、病院びやうゐん依然いぜんとして、まち住民ぢゆうみん健康けんかうには有害いうがいで、不徳義ふとくぎなものである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それゆえにかえっていっそういけなかった。恋したとき、姦淫かんいんの心を起こしたとき、彼女は絶望的な率直さで無我夢中にそれへ突進した。
昔キリストは姦淫かんいんを犯せる少女を石にてたんとしたパリサイ人に対し、汝らのうち罪なき者まず彼女を石にて搏つべしと言ったことがある。
二つの道 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
デデンは唖の巳代吉みよきちが事である。唖で口が利けぬが、挨拶あいさつをする場合には、デデンと云う声を出す。彼は姦淫かんいんの子である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
すなわち淫行、窃盗ぬすみ、殺人、姦淫かんいん慳貪むさぼり邪曲よこしま詭計たばかり、好色、嫉妬ねたみ誹謗そしり傲慢ごうまん、愚痴など、すべてこれらの悪しきことは内より出でて人を汚す。
姦淫かんいんも殺生もすでに許されてこの世界に存在する以上は善いものであるに相違ないというのである。この全肯定の気持ちは深い宗教的意識である。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
昔は他の男を見て心をうごかすものは既に姦淫かんいんしたのと同じだという考え方もあったが、自分は一概にそうは思わない。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
姦淫かんいんするなかれ、処女を侵す勿れ、あによめを盗む勿れ、その他一切の不徳はエホバの神のいましむるところである。バイロンの一生は到底神の嘉納よみするものとも思われない。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
姦淫かんいん売色ばいしょくのみだらな風儀やら、良家の閨門けいもんのみだれやら、僧門の堕落やら、嘘つき上手と腕力のある者勝ちな人間のわが世の春をゆるすような暗黒面も持つのである。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それゆえに彼らの生活には私たちが感じ得る限りでは偸盗ちゅうとう姦淫かんいんがなくとも、彼らの魂の深さと鋭さとはそこに偸盗や姦淫を感じ出さずにはいられなかったのではなかろうか。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
殺人姦淫かんいん等の事件を、拙劣下賤な文字で主として記載する小新聞こしんぶんの流行、またジャズ舞踊の劇場で婦女の裸体を展覧させる事なども、わたくしの予想していなかったものである。
裸体談義 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すでに姦淫かんいん者ソドムの理想を心にいだける者が、しかも聖母の理想をも否定し得ないで、さながら純情無垢むくな青春時代のように、本当に、心から、その理想に胸を燃え立たせることだ。
人ノ家婦ニ姦淫かんいんスルコト他邦ニモアリトイエドモ、コノ地最モはなはダシ、とあるとか、名古屋ノ女、顔色ハ美ナルモ腰ハ大イニ太シ、とかなんとか、名古屋の女のこってりした風味をそれとなく
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
精神の恋が清らかだなどとはインチキで、ゼスス様も仰有おっしゃる通り行きすぎの人妻に目をくれても姦淫かんいんに変りはない。人間はみんな姦淫を犯しており、みんなインヘルノへ落ちるものにきまっている。
悪妻論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
天の父よ、私は姦淫かんいんでありましたことを自ら咎めまする。
姦淫かんいん——霧の誘惑!
窃盗せっとう姦淫かんいん詐欺さぎうえてられているのだ。であるから、病院びょういん依然いぜんとして、まち住民じゅうみん健康けんこうには有害ゆうがいで、かつ不徳義ふとくぎなものである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
パリー人らは、想像上においても実行上においてもあまりに姦淫かんいんをやり遂げたがために、それをもう無趣味に思い始めていた。
お前は一方に崇高な告白をしながら、基督キリストのいう意味に於て、まさしく盗みをなし、姦淫かんいんをなし、人殺しをなし、偽りの祈祷きとうをなしていたではないか。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
顔蔽いせる者 お前は姦淫かんいんによって生まれたものだ。それを愛の名でかくしてはいるが。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
何もかも精力発展の一現象だと思えば、暗殺も姦淫かんいんも、何があろうとさほど眉をしかめるにも及ばないでしょう。精力の発展と云ったのは慾望を追求する熱情と云う意味なんです。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
姦淫かんいんを興味の中心とするような芸術作家の軽佻けいちょうさを、憎みきらっていた。姦淫は彼に嫌忌けんきの情を起こさせるのだった。
然しその瞬間に彼は偽善者になりおおせてしまっているのだ。彼はその心に姦淫かんいんしつづけなければならないのだ。それでもそれは智的生活の平安の為めには役立つかも知れない。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかもこれ神様の眼には免るることのできぬ姦淫かんいんです。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
左衛門 (目を輝かす)殺生せっしょうをしても、姦淫かんいんをしても。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)