夥多おびただ)” の例文
神職 言語ごんご道断、ただごとでない、一方ひとかたならぬ、夥多おびただしい怪異じゃ。したたかな邪気じゃ。何が、おのれ、何が、ほうほう……
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
当時、牙彫の方は全盛期であるから、その工人も実に夥多おびただしいもので、彫刻師といえば牙彫をする人たちのことをしていうのであると世間から思われた位。
荒縄を以て手足をひし々と縛られたまま投込まれたものと覚しく、色は蒼ざめ髪は乱れ、二目と見られぬ無残の体で、入水後已に幾日を経たのであろう、全身腐乱しての臭気夥多おびただしい
河童小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
市場を出た処の、乾物屋と思う軒に、真紅まっかな蕃椒が夥多おびただしい。……新開ながら老舗しにせと見える。わかめ、あらめ、ひじきなど、いその香もぷんとした。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二のものが取り残されたようなわけで木彫りのふるわないことは夥多おびただしいのでありました。
右左におおきな花瓶がすわって、ここらあたり、花屋およそ五七軒は、かこいの穴蔵を払ったかと思われる見事な花が夥多おびただしい。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まず橋の手入れとして予備ぐいなどをやって大丈夫という所で、牛車を通したような訳で、手間の掛かること夥多おびただしく、そのため運賃は以前約束した四十円どころでなく、その六、七倍となりました。
渾名をたこと云って、ちょんぼりと目の丸い、額に見上げじわ夥多おびただしいおんなで、主税が玄関に居た頃勤めた女中おさんどん。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、実はこの怪異を祈伏いのりふせようと、三山の法力を用い、秘密のいんを結んで、いら高の数珠をめば揉むほど、夥多おびただしく一面に生えて、次第に数を増すのである。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
明治七年七月七日、大雨の降続いたその七日七晩めに、町のもう一つの大河が可恐おそろしい洪水した。七の数がかさなって、人死ひとじに夥多おびただしかった。伝説じみるが事実である。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
逆上のぼせ夥多おびただしく鼻血を出すから、手当をして、今ひやしている処だといった。学士がここに来た時には、既にその道をく女に尾行した男というのが明かに分っていた。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
色も空も一淀ひとよどみする、この日溜ひだまりの三角畑の上ばかり、雲の瀬にべにの葉がしがらむように、夥多おびただしく赤蜻蛉あかとんぼが群れていた。——出会ったり、別れたり、上下うえしたにスッと飛んだり。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やっぱり綺麗なのは小鯛こだいである。数は少いが、これも一山ずつにして、どの店にも夥多おびただしい。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
勿論、深くはない、が底に夥多おびただしく藻が茂って、これに足をからまれて時々旅人がおぼれるので。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中にも、こども服のノーテイ少女、モダン仕立ノーテイ少年の、跋扈跳梁ばっこちょうりょう夥多おびただしい。……
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
卓子テエブルの上で、ざざっと鳴出す。窓から、どんどと流込む。——さてもさても夥多おびただしい水らしいが、滝のいきおいもなく、瀬の力があるでもない。落ちても逆捲さかまかず、走ってもほとばしらぬ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あれへ、毒々しい半びらきのきのこが出た、あれが開いたらばさぞ夥多おびただしい事であろう。」
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その手提灯が闇夜に往来をするといった、螢がまた、ここに不思議に夥多おびただしい。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この辺に限らず、何処でも地方は電燈が暗うございますから、顔の前に点いていても、畳の目がやっと見える、それも蚊帳の天井に光っておればまだしも、このに羽虫のたかる事夥多おびただしい。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ものの色もすべてせて、その灰色にねずみをさした湿地も、草も、樹も、一部落を蔽包おおいつつんだ夥多おびただしい材木も、材木の中を見え透く溜池ためいけの水の色も、一切いっさい喪服もふくけたようで、果敢はかなくあわれである。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朝三チョウサンノ食秋風シュウフウクとは申せども、この椎の実とやがて栗は、その椎の木も、栗の木も、背戸の奥深く真暗まっくら大藪おおやぶの多数のくちなわと、南瓜畑の夥多おびただしい蝦蟇がまと、相戦うしょうに当る、地境の悪所にあって
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この方は手形さえあれば、曲りなりにも関所が通られると思うと、五たびに一度、それさえ半年の間なんだ、……小遣をめるんだからね。……また芸者の身になって見りゃ、迷惑な事は夥多おびただしい。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
稲も、はたも、夥多おびただしい洪水のあとである。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、拍子抜けのした事は夥多おびただしい。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夥多おびただしい群団むれをなす。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)