おどか)” の例文
初め山道は麓の村落でおどかされた程急ではないが、漸く樵夫きこりの通う位の細道で、両側から身長みのたけよりも高き雑草でおおわれている処もある。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
「鰻? 鰻ですか。フフフフフ、いや、鰻でも悪い。ピアノは鰻を置く処じゃない。んなにおどかしてし病気になったら如何どうします」
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「それで、わしをおどかしたつもりか、盗人根性ぬすびとこんじょうをもっているのは、一体どっちのことか。おれはもう、貴様との交際は、真平だ」
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「うまくおどかしてやった、人を尋ねると言ったのは大方あのことだろう、燧台のろしばの後ろへ行くとお化けと狼が出ると言ったら本気にしていやがった」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
うーとうなっておどかしてやったら、迷亭はあおくなって山下やましたの雁鍋は廃業致しましたがいかが取りはからいましょうかと云った。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
能因 貴樣が詰らないことを云つておどかすものだから、陰陽師などが遣つて來て、何だかあぶなさうになつて來たから、そつと裏口から拔出して來たのだ。
能因法師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
爺奴ぢゞいめおどかす氣になつて、「竿持つて來て叩き落すぞつ。」つて云ふから「そんな事するならうして呉れるぞ。」つて、僕は手當り次第林檎をつて打付ぶつつけた。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
うっかりと夜道を戻って来た酔払いなどが突然狐や赤鬼におどかされてきもつぶしたり娘たちがひょっとこに追いかけられたりする騒ぎが頻繁ひんぱんに起ったりするので
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
優しい声を出したかと思ふと、今度は又ふだんの通り、突然わたしをおどかすやうにかう申すのでございます。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
単に子供をおどかす想像上の害敵となって永く残りその子供がまた成人して行くうちに、次第に新しい妖怪の一種にこれを算えるに至ったのは注意すべき現象だと思う。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おどかすように呶鳴りつけると、モッフは黙って、そばに並んでいる腰掛をゆびさした。そこには、天井からぶらさがったカンテラに照されて、十人ほどの荒くれ男が正体もなく転がっていた。
ふと、さつきお父さんが「親を睨むと鰈になる。」といつた言葉をおもひ出した。勿論もちろん、はじめそんなことは信じてゐなかつた。大人は時々ああいふことをいつておどかすのだと思つた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
急に自分をとりかこんで天才だの作家だの人気商売だからと半ばおどかすように云ったりする人間だの、急におとなしくなった家のものだのに向って感じる信頼の出来ないいやな心持が
『長女』について (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
おどかされてはいけません。ね、奥さん、何でもありません、どうぞ話して下さい。」
風早學士は、覺えず首をちぢめて、我に返ツた。慌てて後へ引返さうとして、勢込むできびすかへす……かと思ふと、何物かにおどかされたやうに、ちよツと飛上ツて、慌てて傍へ飛退とびのき、そして振返ツた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「仰せの通り新参で。……おどかしちゃいけねえ。恐い顔ですねえ」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
悲しむ勿れ、アカイアの衆をおどかすことなかれ
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
おどかす気になっているが、どのみち近いに越したことはございませんから、この辺をひとつ向うへ突っ切って、この燧台の後ろへ廻ってみましょう
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
が、その拍子ひょうしに犬殺しはじろりと白へ目をやりました。「教えて見ろ! 貴様から先へわなにかけるぞ。」——犬殺しの目にはありありとそう云うおどかしが浮んでいます。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「いや、おどかしではない、本気なんだ。船が見えたら、貴様は綱をひいて、気球の瓦斯ガスを放出して下におりて、助けられるつもりだろうが、それについて、ちと注文があるんだ」
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
不忍しのばずの池の溢れた水中をジャブジャブ漕いで、納涼博覧会などを見物し、折から号外号外の声消魂けたたましく、今にも東都全市街水中に葬られるかのように人をおどかす号外を見ながら、午前十一時五十五分
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
お島に聞いたら、あれはおどかしだと言ったが、お父さんは大分怒ってるようだ。乃公見たいな者はっとして坐っていれば宜い。一寸すこし身体を動かして何かするとそれが直ぐ悪戯になる。厄介な生来うまれつきだ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
われをおどかす事勿れ、汝は之を望み得ず
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
『厭私、おどかすのは。』
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「それをお前さんが調戯からかいなすったんでございましょう。だから猿がああして、仲間をつれて来ておどかすんでございますよ」
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あまりおどかすなよ」
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ことにこの街道には、がんりきと言って一本腕で名代なだい胡麻ごまはえがいるから、なんでも一本腕の男が傍へ寄って来たら、ウントおどかしてやるがいい
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あ、ほんとうに、わたくしを井戸の中へ投げ込んでおしまいなさるのですか、御冗談に、わたくしをおどかしてごらんになるのじゃございませんか」
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この次に来たらおどかしておごらしてやらずばなるまいなんぞと、あとに残った親爺連はいろいろ評定していました。
「ナニ、やる奴に限って先触さきぶれは致しませんな、ただほんのイタズラでございますよ、おどかしに過ぎませんよ」
おどかしておいて、長いのをスラリと引抜くのではなく、懐中から投げ出したのは若干の酒料さかてらしい。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
迷信や因縁事で米友をおどかすには、米友の頭はあまりに粗末でそうして弾力があり過ぎます。昨夕、ここであんなことをお角から言われて、その時はおかしな気分になりました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
兵馬はこうして金助をおどかしながら先に立てて、躑躅ヶ崎の下屋敷へ案内させました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なるほど、そいつは近ごろ面白い見付物みつけものでございます、まかりまちがってもおどかしで済む、うまくゆけば金脈に掘り当てる、転んでも大した怪我はなかりそうなのに、もうかれば大山だ。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「何ですって、女の人が殺された? 冗談じょうだんじゃありません、おどかしちゃいけませんよ」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
冗談じょうだんじゃねえ、善兵衛さん、貧窮組が納まって間もねえ時だ、おどかしっこなし」
六尺の男が戦慄せんりつし、街道を通る牛馬でさえ、立ちすくんでしまうことがあるくらいですから、子供らの歯には合いません、ムク犬もまた子供をおどかすようなことはかつてしたことがないのです。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ゆくりなくもおどかされた音無しの怪物に、飛騨の高山へ来てから最初の、血祭りの刀を抜かせなかったということは、やはり重大なる功徳の一つであったに相違ないと思われるが、やっぱり
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「心配しなさんな、俺らが町のやつらをおどかしといたから、やつらもムクを殺しはしめえ、生きていりゃあ、ムクのことだから、山ん中にいようと谷底に隠れていようと、あとを尋ねて来るからなあ」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「何だえ、おどかしちゃいけないよ、落着いて読んでお聞かせよ」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「何もかも、そう知り抜いていたんじゃあ、おどかしにもならぬ」
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
歩兵はうるさいから、道庵の胸倉むなぐらを取っておどかすと
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「やい、おどかすない」
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おどかしてみました。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)