叩頭こうとう)” の例文
しかも、それにもかかわらず、依然として此の生の歩みは辛い。私は私の歩み方の誤を認め、結果の前に惨めに厳粛に叩頭こうとうせねばならぬ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
お京自身も、せつない胸のうちをおさえかねながらも、持ちまえの負けじ魂で、いたずらに、男の膝下に叩頭こうとうすることは、きらいであった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
みずから曰く、「余は伊太利国民の多数の意志に忸怩じくじとして叩頭こうとうす、しかれども伊太利帝国は、到底余をその臣下の一に数うるあたわざるべし」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
某年の春阿部侯正寧まさやすは使を遣はして吉野桜の一枝を乞うた。榛軒は命を奉ぜなかつた。そして使者と共に主に謁し、叩頭こうとうして罪を謝した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
聚楽第じゅらくだい行幸で、天下の群雄を膝下しっか叩頭こうとうさせて気をよくして居た時でも、秀吉の頭を去らなかったのは此の関東経営であろう。
小田原陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
とはいえいまだいまだ漫才氾濫以前ではあったから吉本といえども営業政策上、大看板に表面の叩頭こうとうすることくらいは忘れてはいなかった。
わが寄席青春録 (新字新仮名) / 正岡容(著)
老臣らもまた、秀吉の陣門に叩頭こうとうのほかはなく、信孝の生母の坂氏、及び家族の女子たちを質子ちしとした上、なお自分らの母たちまで送って
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大士と弟子たちの宥免ゆうめんを願い奉ると夫婦叩頭こうとう、坊主も頓首とんしゅし続けて互いに赦しを乞う事十五分間とは前代未聞の椿事なり。
あなたの眼力には恐れいったと叩頭こうとうするとき、人は、嘘もからくりも見とおしだ、という事実を承認したわけになる。
作家の経験 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
私はあきれていた。大チャンはその私のを握りしめて、それを上下に振るようにして叩頭こうとうした。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
「そして十一月には祝言をやっつけますから」彼はこういって叩頭こうとうした、「伯母上によろしく」
評釈勘忍記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし驚いたけはいも見せず、それぎり別々の方角へ、何度も叩頭こうとうを続け出した。「故郷へ別れを告げているのだ。」——田口一等卒は身構えながら、こうその叩頭を解釈した。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし、領主をいまだに殿様と呼び、その前では平伏叩頭こうとうする習慣を維持している士族一派を、市民たちは御家禄ごかろく派と呼び特殊階級として許していることは明らかな事実であった。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
叮嚀に叩頭こうとうして行ったのを、参列の人々の中で喜んでいる人が相当あった。
父杉山茂丸を語る (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼の前に叩頭こうとうして、疑いのけぶりさえ見せませんし、地方地方の縁故のもの、旅館などでは、まるで殿様を迎える騒ぎで、彼の顔を見つめる様な、無躾ぶしつけなものは一人もありませんし、それに時々は
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たれぞと見るに神楽観しんがくかんの道士王昇おうしょうにして、帝を見て叩頭こうとうして万歳をとなえ、嗚呼ああきたらせたまえるよ、臣昨夜の夢にこう皇帝の命をこうむりて、ここにまいりたり、と申す。すなわち舟に乗じて太平門たいへいもんに至りたもう。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
藤波は昂然こうぜん叩頭こうとうして
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ひじを張って叩頭こうとうす。)
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「備前でござる。今夕こんせきたわむれは、まったく門人どもの私意。ひらにおゆるしを。平に」とばかり百遍も叩頭こうとうして詫び入った。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうしてそんないい条件の『星』や『レーニングラード』が、くだらないゾシチェンコに叩頭こうとうしたり、アフマートヴァを魅力あると思いちがえしたりしたのだろう。
政治と作家の現実 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
主人数十人をひきい、往き掘りてその金を得、引き返して穀賊の前へ叩頭こうとうし、何とか報恩供養したいから拙宅へ二度入りをともうすと、穀賊、さてこそと言わぬばかりに答うらく
我國文の格式に至りては、よろしく和學先生の前に叩頭こうとうして其教を奉ずべしと。されば我が早稻田文學の聚美しゆうびの堂を指ざして、あれを見よといはむ聲も、或は全く無功徳にはあらざるべきか。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
と云いながら続けさまに叩頭こうとうした。勘次は落ちつけば落ちつく程、胸の底が爽やかに揺れて来た。が、秋三は勘次の気持を見破ると、盛り上って来た怒りが急に折れて侮辱の念に変って来た。
南北 (新字新仮名) / 横光利一(著)
然れども、キイツ云々の詩はオスカア・ワイルドの作なれば、佐藤春夫のす筈なし。それを賦したと言はれては、佐藤春夫も迷惑ならん。賦すに訳すの意ありや否や、あらば叩頭こうとう百拝すべし。
念仁波念遠入礼帖 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
老僕はまごついたように叩頭こうとうして、いたずらでございますと口を濁した。金造と代ってから二年あまりになるが、いつも黙々と働く姿を見るだけで、彼とは余り言葉を交わしたことがなかった。
柘榴 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
竜太郎は、叩頭こうとうした。
墓地展望亭 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
朱貴、杜選、宋万らは、ゆかにへたばッて、ただ叩頭こうとうするのみである。堂外の手下てかや小頭目もみな、わっと、どよめきを揚げただけで、その後の声もない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かたちは猿猴のごとくで小さし、目赤く尾短くてなきごとく青黄にして黒し、昼は動かず、夜は風に因っていと捷く騰躍し巌を越え樹を過ぎて鳥の飛ぶごとし、人を見ればじて叩頭こうとう憐みを乞う態のごとし
韓嵩は手を振って叩頭こうとう百遍しながら
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
役人は叩頭こうとうして答えた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)