取得とりえ)” の例文
いったい、このつづみの与吉ってえ人物は、ほかに何も取得とりえはないんですが、逃げ足にかけちゃア天下無敵、おっそろしく早いんです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
早いばかりが取得とりえではない、早いが上に、それがちゃんと物になっているのはさすがに偉いと、わたしはまた今更のように感心させられた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「馬鹿は附け燒刄で、——死んだお袋はさう言ひましたよ。馬鹿見たいに見えるのと、大飯を食ふのがお前の取得とりえだと」
それでもひて『古今集』をほめて言はば、つまらぬ歌ながら万葉以外に一風を成したる処は取得とりえにて、如何いかなる者にても始めての者は珍しく覚え申候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
わたくしにはそれがなによりつらく、今更いまさらなん取得とりえもなき、むかし身上みのうえなどをつゆほども物語ものがたりたくはございませぬ。
これでは何の取得とりえもないが、ここに注意すべきは女房たるもの、兄とその情人いろのごときもの、且つ女中に至るまで、よく注意して秘密を守り遂げる信用があるので
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すはやとて両人衣服をぬぎすて水に飛入りおよぎよりて光る物をさぐりみるに、くゝり枕ほどなる石なり、これを取得とりえて家にかへり、まづかまどもとおきしに光り一室いつしつてらせり。
たら吃驚びつくりでござりませういろくろたか不動ふどうさまの名代めうだいといふ、では心意氣こゝろいきかとはれて、此樣こんみせ身上しんしやうはたくほどのひとひといばかり取得とりえとては皆無かいむでござんす
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
バリモントも態々わざ/\日光へ出掛けるなぞ無駄な事をしたものだが、それでも感服しなかつただけが取得とりえだ。矢張評判にそむかないだけの詩人の感覚センスといふものを持つてゐると見える。
ところが、色が黒うて、ただ男まさりな気丈きじょうと、体の逞しいのが取得とりえの乳母じゃ。それをいつも、奥女中たちにからかわれてな、何かにつけ、色の黒いを恥ろうてばかりおった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
部屋は此通り余り好くはなかったが、取得とりえは南向で、冬暖かで夏涼しかった。其に一番尽頭はずれの部屋で階子段はしごだんにも遠かったから、の客が通り掛りに横目で部屋の中をにらんで行く憂いはなかった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「馬鹿は付け焼刃で、——死んだお袋はそう言いましたよ。馬鹿見たいに見えるのと、大飯を食うのがお前の取得とりえだと」
ことし十八で、いわゆる山出しの世間見ずではあるが、正直一方に働くのを取得とりえに、主人夫婦にも目をかけられていた。
半七捕物帳:47 金の蝋燭 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それでもいて『古今集』をほめて言わばつまらぬ歌ながら『万葉』以外に一風を成したるところは取得とりえにて、いかなる者にても始めての者は珍らしく覚え申候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
すはやとて両人衣服をぬぎすて水に飛入りおよぎよりて光る物をさぐりみるに、くゝり枕ほどなる石なり、これを取得とりえて家にかへり、まづかまどもとおきしに光り一室いつしつてらせり。
聞説きくならく、曹丞相は、文を読んでは、孔孟の道も明らかにし得ず、武を以ては、孫呉そんごいきにいたらず、要するに、文武のどちらも中途半端で、ただ取得とりえは、覇道強権はどうきょうけんを徹底的にやりきる信念だけであると。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうならべ立てると、かれは何だか取得とりえのない俳優のように思われるであろうが、なかなかそうでない。それをわたしがこれから語ろうとするのである。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
真淵が万葉以外に一派を立てた(一派といひ得べきか否か知らず)のはえらしとするも、その一派なる者が万葉より劣りたる者ならんには、何の取得とりえかあるべき。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「ウム、忘れッぽいのもお前の特色だが、早分りがするのもそちの取得とりえというもの。一つの大事にかかる以上は、それくらいな気組でいてくれなければ困る。……おお、それはそうと、鳩の密使はどうしたろう?」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう都合で、脚の高いのを取得とりえに先ずそれを買い込んで、そのまま今日まで使っているわけです。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
全体おもしろくもねえ野郎だと思ったが、おとなしいのを取得とりえに今まで可愛がって置いてやったのだ。それになんだ、柄にもねえ光る物なんぞを振り廻しゃあがって……。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
僕の郷里は田舎にしては珍しく路のいいところだ。まあ、その位がせめてもの取得とりえだろう。
こま犬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)