千載せんざい)” の例文
なお、自分のために、堀尾茂助までが、千載せんざいぐうの決戦主戦場から除かれて、残留組に廻されたのは、何とも気のどくの感に堪えない。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お町を救はなかつたのが、恐らく千載せんざい恨事こんじだつたのでせう。さう言ふうちにも、チラリチラリと周助の滿悦の顏を見やります。
鼻名びめい千載せんざいに垂れる資格は充分ありながら、あのままでち果つるとは不憫千万ふびんせんばんだ。今度ここへ来たら美学上の参考のために写生してやろう
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
存命していても二葉亭はやはりとつおいつ千思万考しつつ出遅れて、可惜あったら多年一剣を磨した千載せんざいの好機を逸してしまうがおちであるかも解らん。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
額田王ぬかたのおおきみに送って千載せんざいの後に物議の種を残した有名な恋歌「紫のにおへるいもを憎くあらば人妻ゆゑにわれ恋めやも、」の一首は、帝の情熱的な性質を語って余蘊ようんがない。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
人に百歳の寿なく、社会に千載せんざいの生命なし。さすがに社会的経綸けいりん神算しんさん鬼工きこうを施したる徳川幕府も、定命ていめいの外にづべからず。二百年の太平は徳川幕府の賜物たまものなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
真情をうつさば、一葉の戯著といふともなどかは価のあらざるべき、我れは錦衣きんいを望むものならず、高殿たかどのを願ふならず、千載せんざいにのこさん名一時のためにえやは汚がす
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
千載せんざい一遇いちぐう、国家存亡の時にでっくわして、廟堂びょうどうの上に立って天下とともにうれいている政治家もあるのに……こうしてろくろくとして病気で寝てるのはじつになさけない。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
いいかい? 慎重に反省して、事を運んでくれよ。千載せんざいに恥をさらすような真似は絶対にしてくれるなよ。うっかりすると、君の一生は滅茶滅茶めちゃめちゃになってしまうからな。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
美しい花(小木)が千載せんざいの古木と突兀とっこつたる岩の間に今を盛りと咲き競うて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「遅れると基経殿が見える……千載せんざいの遅れをとるぞ。」
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
壮士 千載せんざいの心
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「それを英雄の心事と、自負されるに至っては、貴公もちと小さいな。……あはははは、貴公のいう通りに終ったら、千載せんざいのもの笑いだ」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰が殺したか解らぬが、拙者に取つては千載せんざい遺恨ゐこん、鳴川留之丞は是が非でも討取るべき相手であつたし、鞍掛宇八郎にも一言のうらみが言ひ度かつた。
そこでこの矛盾なる現象の説明を明記して、暗黒のふちから吾人の疑を千載せんざいもとに救い出してくれた者は誰だと思う。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まさしく九重ここのえ御階みはしに立ち匂い、彼の臣子一片の忠誠は、はしなくもこのありがたいのりに浴して、千載せんざい、国土とともにあるものとなった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(かくの如き時は生涯二度とはありませぬぞ。秀吉とて明日はこの世の者でないかも知れず、かかる時をいっして悔いを千載せんざいにのこし給うな)
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人間が地上にいた諸行は、善業悪業ともに、白紙へ墨を落したように、千載せんざいまでも消えはしない。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうえ高徳は、守護の松田父子をかいして、大覚ノ宮にも拝謁した。——さらには今、後醍醐の輦輿れんよがこの中国路の目のさきを越えて行く——。まさに千載せんざい一遇いちぐうである。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
千載せんざいの一ぐうだぞ」と、功名手柄を励ましたが、ひとり沮授そじゅの出陣だけは、ひとと違っていた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旗差物はたさしものへ書いて、鎌倉へ登ろうと幾度いくたびかいっていた、その度ごとに、汝を初め、老臣どもが、とやかく申してさえぎったために、千載せんざいの機を逸して、いつまでも高綱の胸中に
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、短い人命なればこそ、長い先を考えるのだ。老公を見たまえ、百年はおろか、千載せんざいの先を考えておられる。……眼前のうらみはすべて涙と共にんでいようじゃないか」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春日山かすがやま太守たいしゅ景勝様には、当城に御在陣ときき、主人羽柴筑前守様にも、千載せんざいの好機なれ、ぜひとも、一夕いっせきお会い申したいと、陣旅じんりょ寸暇すんかをさいて、富山よりこれへ参ってござる。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
皇后おおきさき禧子よしこをはじめ、後宮の妃から宮々の姫ぎみも供奉ぐぶし、公卿大臣おとどといえば、この日のお供に洩れるなどは、千載せんざいの恥かのように思って、終日の花の宴に、あらゆる余興やびの百態を
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もしこういう四囲の状態が生じなかったら、美しき新妻との生活に、断ちきれない未練も持ち、生来の遊惰ゆうだかんに馴れた癖がつい意志をにぶらせて、遂に、千載せんざいの機を逸してしまうかもしれない。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青毛あおに騎乗して、名を成すべかりしを、ふと、その若駒わかごまの故障から、思い止まって、脾肉ひにくかこっていた渡が——天高き秋の仁和寺競馬を、千載せんざいぐうのときと、ふたたび手につばしていることである。
つまらない座談に千載せんざいの好機を逸してしまった。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)