初秋しょしゅう)” の例文
その代り、私は忘れられぬほど音色ねいろの深い上野の鐘を聴いた事があった。日中はまだ残暑の去りやらぬ初秋しょしゅうの夕暮であった。
ここはもう初秋しょしゅうにはいっています。僕はけさ目をました時、僕の部屋の障子しょうじの上に小さいY山や松林のさかさまに映っているのを見つけました。
手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
兄妹きょうだいは、縁側えんがわて、おともなくぬかぼしひかっている、やがて初秋しょしゅうちかづいたよるそらていましたが
銀河の下の町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
隈取くまどりでもしたようにかわをたるませた春重はるしげの、上気じょうきしたほほのあたりに、はえが一ぴきぽつんととまって、初秋しょしゅうが、路地ろじかわらから、くすぐったいかおをのぞかせていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
東叡山とうえいざん寛永寺かんえいじ山裾やますそに、周囲しゅういいけることは、開府以来かいふいらい江戸えどがもつほこりの一つであったが、わけてもかりおとずれをつまでの、はすはな池面いけおも初秋しょしゅう風情ふぜい
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
正二しょうじくんのちふるほそたけぼうは、あお初秋しょしゅうそらしたで、しなしなとひかってえました。
野菊の花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と見るもなく初秋しょしゅう黄昏たそがれは幕のおりるように早く夜に変った。流れる水がいやにまぶしくきらきら光り出して、渡船わたしぶねに乗っている人の形をくっきりと墨絵すみえのように黒く染め出した。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かれは、しだいにふけていく、初秋しょしゅうよるそらあおぎました。金色きんいろに、緑色みどりいろに、うすくくれないに、無数むすうほしかがやいています。おそらく、どの一つにも烈々れつれつとして、ほのおがっているにちがいない。
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)