便すなわ)” の例文
内典ほとけのみのり興隆おこさむとおもふ。方将まさ寺刹てらを建てむときに、はじめて舎利を求めき、時に、汝が祖父司馬達等しばたちと便すなわち舎利をたてまつりき。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
抖擻シテ一関ニ帰ス/浄業長ク修ム小蓮社/法輪又転ズ寿亀山/丹梯此リ仙路ヲ開キ/玉歩重重便すなわチ攀ヅ可シ〕
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「林をいでかえってまた林中に入る。便すなわち是れ娑羅仏廟さらぶつびょうの東、獅子ししゆる時芳草ほうそうみどり、象王めぐところ落花くれないなりし」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
世の慾を捨てし我らなればその芳志こころざしうくるのみ、美味と麁食とをえらばず、わずかに身をば支ふれば足れりといふにぞ、便すなわち稗の麨を布施しけるに、僧は稗の麨を食しおわりてさりたりける。
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
己酉つちのととり(二十八日)……さらに日本やまと乱伍らんご中軍ちゅうぐんの卒を率いて進みて大唐の軍をつ。大唐、便すなわち左右より船をはさみてめぐり戦う。須臾とき官軍みいくさ敗績やぶれぬ。水におもむきて溺死しぬる者おおし。
金将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
便すなわちこれ死所、世に身生きて心死せる者有り、身亡びて魂存する者有り、心死せば生くるも益無きなり、魂存すれば亡ぶるも損無きなり、「いわゆる死生はわれ久しくひとしうするものか」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
いわく何ぞ下り去らざると、山遂に珍重してれんかかげて出で、外面の黒きを見て、卻回きゃっかいして云く、門外黒しと。潭遂に紙燭を点じて山に度与どよせむとす。山接せむとするにあたって潭便すなわ吹滅ふきけす。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
古俳諧史の無味乾燥にして、ろうむが如きはいたずらに欠伸けんしんを催すに過ぎざるべきも、その欠伸を催さしむる処、便すなわちこれ古池の句をき出だす所以ならずんばあらず、子しばらくこれを黙聴せよ。
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
信ずるなかれ凌波りょうは便すなわち天に上るを
西湖主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そもそも俳諧狂歌の類は江戸泰平の時を得て漢学和学の両文学渾然こんぜんとして融化ゆうか咀嚼そしゃくせられたるの結果偶然現はれ来りしもの、便すなわ我邦わがくに古文明円熟の一極点を示すものと見るべきなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼がこの二者の選択を自ら決断する能はずして神の御籤みくじに依りたるに、御籤は俳諧を為すべしとありしとかや、便すなわち俳諧の独吟千句は成れり。これより先連歌師は時に俳諧の発句を成すことあり。
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
一陌いっぱくの金銭便すなわち魂を返す
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「洛城纔下便江城。火転輪船紫焔明。二百年来修曠典。両三日裏了遐程。海神護送海波穏。天日照臨天気晴。税駕自今親庶政。小儒私擬頌昇平。」〔洛城わずカニ下レバ便すなわチ江城/火船輪ヲ転ジテ紫焔明ラカナリ/二百年来曠典ヲ修メ/両三日ノうちニ遐程ヲヘリ/海神護送シテ海波穏ヤカ/天日照臨シテ天気晴ル/駕ヲ
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)