京城けいじょう)” の例文
しろがどうやらできあがったころ、明軍みんぐん十四まんの大兵が京城けいじょう到着とうちゃくし、この蔚山城うるさんじょうをひともみに、もみ落とそうと軍議していることがわかった。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
再び私は母と姉と三人で母の里の柘植つげへ移らねばならなかった。父が遠方の異国の京城けいじょうへ行くことになったからである。
洋灯 (新字新仮名) / 横光利一(著)
京城けいじょうにいるとか会社員をしている事は、いままで、なんら、悪条件と感じませんでしたが、こんどの事件があってからは、急にイヤになったのです。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼女の母は今でも京城けいじょうに住んでいて、ときどき手紙を寄越すと云う。なるほどそれなら鴨緑江節の上手なことも、語学の習得の早いこともうなずかれる。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
Gは卒業後しばらく東京のT工務所につとめたのち、ちやうど京城けいじょうに新たに建つことになつた大きな病院の仕事に、破格なほど高い椅子いすを与へられた。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
安倍能成あべよししげ君が「京城けいじょうより」の中で「人柱ひとばしら」ということが西洋にもあったかどうかという疑問を出したことがあった。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
京城けいじょうはすでに陥った。平壌へいじょうも今は王土ではない。宣祖王せんそおうはやっと義州ぎしゅうへ走り、大明だいみんの援軍を待ちわびている。
金将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は京城けいじょうにあるかなりの地位と財産とを持った家の一人息子と生れて、今は東洋大学の哲学科に席を置いているが、学校には滅多に出たことがなく、いつも
参軍断事さんぐんだんじ高巍こうぎ、かつて曰く、忠に死し孝に死するは、臣のねがいなりと。京城けいじょう破れて、駅舎に縊死いしす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかし、ぼくは今日、ロスアンゼルスで買った記念の財布さいふのなかから、あのとき大洋丸で、あなたに貰った、あんずの実を、とりだし、ここ京城けいじょう陋屋ろうおくもささぬ裏庭にてました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
彼は支那ばかりでなく、最初は朝鮮、満洲へ渡って、仁川じんせんへも行き、京城けいじょうへも行き、木浦もっぽ威海衛いかいえい、それから鉄嶺てつれいまでも行った。支那の中で、一番気に入ったところは南京ナンキンだった。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
京城けいじょうに一人の兇賊が徘徊した。かれは人家で賊を働いて、その立去たちさるときには必ず白粉はくふんを以て我来也の三字を門や壁に大きく書いてゆく。官でも厳重に捜索するが容易に捕われない。
自来也の話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
両親は早く死し兄が家督かとくを取っていたが、経費ばかりかかって借財も年々かさむばかりなので、いよいよ財産整理をした上家族をつれて朝鮮の京城けいじょうへ移住し運だめしに一奮発するというのである。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
近い飛鳥から、新渡来いまき高麗馬こままたがって、馬上で通う風流士たわれおもあるにはあったが、多くはやはり、鷺栖さぎすの阪の北、香具山のふもとから西へ、新しく地割りせられた京城けいじょう坊々まちまちに屋敷を構え、家造りをした。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
永宗僉使えいそうせんし申考哲しんこうてつがこの戦勝を京城けいじょうに報告した文中に
撥陵遠征隊 (新字新仮名) / 服部之総(著)
みずから言う もとはこれ京城けいじょうの女
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父は定雄の二十五歳のときに京城けいじょう脳溢血のういっけつのためにたおれたので、定雄は父の死に目にも逢っていなかった。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「ふん、それじゃ何かい。あしたはお前の家へ、京城けいじょうからお金持ちの親戚が来るとでも言うのかい?」
ところがその中に私はある官辺の用向きで、しばらく韓国かんこく京城けいじょう赴任ふにんする事になりました。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
されども人智はかぎり有り、天意は測り難し、あにはからんや、太祖が熟慮遠謀して施為しいせるところの者は、すなわち是れ孝陵こうりょうの土いまだ乾かずして、北平ほくへいちり既に起り、矢石しせき京城けいじょう雨注うちゅうして
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
徐はしかし、身体が弱くて、よく病気をするので、その後郷里へ帰ったが、私達の入獄した最初の冬の頃、何でも肋膜ろくまくか何かで京城けいじょうの病院で死んだという知らせがあった。
じっとその話に聞き入っていた私は、子爵が韓国かんこく京城けいじょうから帰った時、万一三浦はもう物故ぶっこしていたのではないかと思って、我知らず不安の眼を相手の顔にそそがずにはいられなかった。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)