いど)” の例文
村落には石のいどがあって、その辺は殊にやなぎが多い。楊の下にはしん国人がかごをひらいてかにを売っている。蟹の大なるは尺を越えたのもある。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
午後になって、私らが学校から戻って来ると、その冷えきった西瓜がいどから引上げられて、まず母の庖刀で真二つに切られる。
私の父 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
その小屋の周囲に大きな赤黒く汚れた桶が三ツ四ツちらばって青田の中にある。この辺は一面に青田になっている。私は一見して石油いどだということが分った。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
家を護る土公神はというと、春は竈、夏は門、秋はいど、冬は庭にありというから、夏から秋口へ向うこのごろのこと、まず門と井戸とに見当あたりをつけておきたい。
どの家のいどでも深ければ深い程、竜宮の水を吊り上げる事の出来る様なものである。此水こそは、普遍化の期待に湧きたぎっている新しい人間の生命なのである。
歌の円寂する時 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
その水はどこからあおぐかというと、御殿の所から二、三丁も下へ降り、それからまた平地を二丁ばかり行ってはるか向うに流れてある川端かわばたいどから水を運ぶのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それでも入らぬよりましと笑って、我慢がまんして入った。夏になってから外で立てた。いども近くなったので、水は日毎に新にした。青天井あおてんじょうの下の風呂は全く爽々せいせいして好い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いどは勝手口からたゞ六歩むあし、ぼろ/\に腐つた麦藁屋根むぎわらやね通路かよひぢいどふてる。
水汲み (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
(6)旧約伝道の書第十二章第六—七節、「しかる時には銀の紐は解け金の盞は砕け吊瓶つるべは泉の側にやぶ轆轤くるまいどかたわられん、しかしてちりもとごとく土に帰り霊魂たましいはこれをさずけし神にかえるべし」
すると、裏店のいどのわきにそびえている大きなけやきうろから
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四角な石の井戸側に『井浚いさらいど』と深く彫ってある。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それからいよいよ日時が決定されると、その日の早朝、あるいは前夜、その西瓜を細引でしばっていどにつける。
私の父 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
れ謹み敬いて申し奉る、上は梵天帝釈ぼんてんたいしゃく四大天王、下は閻魔法王五道冥官どうみょうがん、天の神地の神、家の内にはいどかみかまどの神、伊勢の国には天照皇大神宮、外宮げぐうには四十末社、内宮には八十末社
それはこの法王殿の中に一個のいどもなければ泉もない。全く水がないのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
玉川に遠いのが第一の失望で、いどの水の悪いのが差当っての苦痛であった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いどの水が悪いのが差当さしあたつての苦痛であつた。
水汲み (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
「まだ見ぬ異母兄あにじゃが、そこの旗屋町とかには、異母兄頼朝が産湯うぶゆいどもあるとのこと。異母兄は熱田で生れたとみゆる。——わしも由縁ゆかりの深いそこへ行って、男になろうと思うのじゃ。吉次、これより熱田路へ参ろうよ」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
清水しみずいど
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「家の内にはいどの神——おう、惑信!」夕闇のなかで藤吉は小膝を打った。
時々西の方で、ある一処雲がうすれて、探照燈たんしょうとうの光めいた生白なまじろい一道のあかりななめに落ちて来て、深い深いいどの底でも照す様に、彼等と其足下の芝生しばふだけ明るくする。彼等ははっと驚惶おどろきの眼を見合わす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
屎尿しにょうが沢山ある道の傍にいどがあってその井から水を汲み出して呑むというのですから、随分衛生上にはこれほど悪い事はあるまいかと思われるけれども、しかしそれ程衛生には害になって居らない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)