不具かたは)” の例文
いろひ、またゆき越路こしぢゆきほどに、られたとまを意味いみではないので——これ後言くりごとであつたのです。……不具かたはだとふのです。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一つ間違へば命も失はなければならん、不具かたはにもれなければならん、阿父さんの身の上を考へると、私は夜も寝られんのですよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
二本でも時々観世物みせものなどに来ることがあります。これは「両頭の蛇」と云つて、蛇の不具かたはです。かはづ蜥蜴とかげなどにも、よくこんなのがゐます。
原つぱの子供会 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
それに、宿から借りて居た自炊の道具も皆返して了ふし、机も何もなくなつてるし、薄暗いへや中央まんなかに此不具かたはな僕が一人坐つてるのでせう。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そして普魯西プロシヤ捕虜とりこになつてゐる甥の名前と収容所の所書ところがきとを渡すと、それから一週間ほど経つて、甥は不具かたはになつた捕虜の幾人いくたりと一緒に瑞西に送り帰されて来た。
傴僂せむしのやうに思ひますが、別に不具かたはな樣子はなく、竹のやうに長くて武骨な手足、白痴はくちのやうに陰氣で無表情な顏、油つ氣のないまげ、何處から見ても、お舟と一緒に置いて
仮令たとへ急に悪病が起つて耻かしい様な不具かたはになつても、御見棄おみすてなさらぬのでせうかの、フン、言ひたい熱を吹いて、何処どこに今時、損徳も考へずに女房など貰ふ馬鹿があるものか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ところが、不具かたはの人や、怪我けがした人や、病気になつた人や、生きてゐても何ののぞみもないやうな人たちが、ひどく苦しみまして、死神をよぶ声が、あちらにもこちらにも起りました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
重右め、不具かたはだもんだで、姫つ子が何うしても承知しねえ、二ばん、三ばん、五ばんほど続けて行つて、姫つ子を幾人も変へて見たが、何奴どいつも、此奴も厭だアつてぬかして言ふ事を聞かねえだ。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
いっそ若い身空で不具かたはとなって生きるよりは、このまゝ死んで呉れた方がお葉の為めでもあり、また自分にもその方がいゝかもしれないなどゝ考へて居たが、かうして娘はベッドにねて居るが
青白き夢 (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
神が獻物さゝげものの半分で滿足なさるとあなたは思ふのですか。神は、不具かたはの犧牲をお受けれになるでせうか。僕が云ひ張るのは神さまの爲めです。僕は、神の旗印はたじるしの下に、あなたを召集するのだ。
そなたこひ盟約ちかひ内容なかみ空誓文からぜいもん、なりゃこそ養育はごくまうとちかうたこひをもころしてのけうとやるのぢゃ、そなた分別ふんべつ姿すがたこひかざりぢゃが、本體ほんたいうないので不具かたはとなり、おろかそつ藥筐くすりいれ火藥くわやくのやうに
白痴ばかか、狂氣か、不具かたはか、唖か、墮胎藥おろしぐすりまされた
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
「太政官は、身體の何處ぞが不具かたはやてなア。」
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
のぞみのない不具かたはめが
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
唐變木たうへんぼくであり變人であり、不具かたはぢやないかなどと、惡口を言はれるほどの謹直さでした。
新聞に在る通だけれど、不具かたはになるやうな事も無いさうだが、全然すつかりくなるには三月みつきぐらゐはどんな事をしてもかかるといふ話だよ。誠に気の毒な、それで、阿父おとつさんも大抵な心配ぢやないの。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「この見えぬ眼! この不具かたはの腕!」と彼は悲しげに呟いた。
不具かたはの父もてる三太さんたはかなし
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「今度は綱渡りの綱を切つた奴があるんです。お鈴はお振袖を着たまゝお客の頭の上へ眞つ逆樣に落ちて、眼を廻す騷ぎだ。幸ひ息は吹返したが、足を折つたさうで不具かたはになるかも知れません」
すぐ貴方あなたに会うて、是非これは思返すやうに飽くまで忠告して、それで聴かずば、もう人間の取扱は為ちやをられん、腹のゆるほど打踣うちのめして、一生結婚の成らんやう立派な不具かたはにしてくれやう
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)