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きづゝ
春枝夫人の
嬋娟たる
姿は
喩へば
電雷風雨の
空に
櫻花一瓣のひら/\と
舞ふが
如く、
一兵時に
傷き
倒れたるを
介抱せんとて、
優しく
抱き
上げたる
彼女の
雪の
腕には
傷き
斃れたのも
少くない
樣子で、
此日も
既に十二三
里許進みて、
海岸なる
櫻木大佐の
住家からは、
確かに三十
里以上距つたと
思はるゝ
一高山の
絶頂に
達した
時には、
其數も
餘程減じて
『
何事も
天命です、
然し
吾等は
此急難に
臨んでも、
我日本の
譽を
傷けなかつたのがせめてもの
滿足です。』と
語ると、
夫人も
微かにうち
點頭き、
俯伏して
愛兒の
紅なる
頬に
最後の
接吻を
與へ
坂本は敵が見えぬので、「待て/\」と制しながら、
神明の
社の角に立つて見てゐると、やう/\烟の中に
木筒の口が現れた。
さうすると
内骨屋町筋から、
神明の
社の角をこつちへ曲がつて来る
跡部の
纏が見えた。二町足らず隔たつた
纏を
目当に、格之助は
木筒を打たせた。
四辻の
辺に敵の遺棄した品々を拾ひ集めたのが、
百目筒三挺車台付、
木筒二挺内一挺車台付、
小筒三挺、其外
鑓、旗、太鼓、火薬
葛籠、
具足櫃、
長持等であつた。