鳳仙花ほうせんか)” の例文
鳳仙花ほうせんかは近世に外国から入って来た草かと思われるのに、現在は全国えておらぬ土地もなく、その名前がまた非常に変化している。
近ごろは店の前の街路樹を利用して、この周囲に小さい花壇を作って、そこに白粉おしろいや朝鮮朝顔や鳳仙花ほうせんかのたぐいを栽えているのもある。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
インパチェンスは鳳仙花ほうせんかの類の一般的な名前らしいが、ともかくも「かんしゃく」である。ノリ・タンゲレは「さわられるのがいや」である。
沓掛より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
鳳仙花ほうせんかの、草にまじって二並ふたならびばかり紅白の咲きこぼるる土塀際をはすに切って、小さな築山のすそめぐると池がある。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もちろん漁師たちの家だろうが、どの家の前にも、一坪ばかり土盛りをした、囲いに、松葉牡丹まつばぼたんや、鳳仙花ほうせんかや、名の知れない草花が、活き活きと咲いていた。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
公園からだらだらのさか西谷にしたにの方へ、日かげをえらみ選み小急ぎになると、桑畑の中へ折れたところで、しおらしい赤い鳳仙花ほうせんかが目についた。もう秋だなと思う。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
一間の窓の前に小さな庭があって、鳳仙花ほうせんかの幾本かが田舎めいた質素な赤い花をつけていた。その他に見るものもない庭のこととて、私はその正面に机を据えた。
或る少女の死まで (新字新仮名) / 室生犀星(著)
庭の草木も濡れて復活いきかえった。毎日々々のあつさで、柔軟かよわ鳳仙花ほうせんかなぞは竹の垣のもとに長い葉を垂れて、紅く咲いた花も死んだように成っていたが、これも雨が来て力を得た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
裏の百姓家も植木師をかねていたので、おばあさんの小屋こいえの台所の方も、雁来紅はげいとう天竺葵あおい鳳仙花ほうせんか矢車草やぐるまそうなどが低い垣根越しに見えて、鶏の高くときをつくるのがきこえた。
表手おもても裏も障子を明放あけはなして、畳の上を風が滑ってるように涼しい、表手の往来から、裏庭の茄子なす南瓜かぼちゃの花も見え、鶏頭けいとう鳳仙花ほうせんか天竺牡丹てんじくぼたんの花などが背高く咲いてるのが見える
姪子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
露草、鳳仙花ほうせんか酸漿ほおずき白粉花おしろいばな、除虫菊……密集した小さな茎の根元や、くらくらと光線を吸集してうなだれている葉裏に、彼の眼はいつもそそがれる。とすさまじい勢で時が逆流する。
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)
まず引越しをして来ると、庭の雑草をむしり、垣根をとり払って鳳仙花ほうせんか雁来紅がんらいこうなどを植えた。庭が川でつきてしまうところに大きなえのきがあるので、その下が薄い日蔭になりなかなか趣があった。
落合町山川記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
見ると、黒襟の半纏をズッこけそうに引ッかけて、やけのあらがみ、足の指にはチョッピリ鳳仙花ほうせんかべにをさしていようという、チャキチャキの下町ッ児、大変者たいへんものの風格だから、園絵は思わず用心をして
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あまりに強く、あまりに多いために、ややもすれば軽蔑されがちの運命にあることは、かの鳳仙花ほうせんかなどと同様であるが、私は彼を愛すること甚だ深い。
我家の園芸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ツマグレ即ち鳳仙花ほうせんかの花びらを以て、子供が指をあかく染めるときに、この葉を交えんで色を出すという。
鳳仙花ほうせんかの実が一定時間の後に独りではじける。あれと似たような武器も考えられるのである。しかし真似したくてもこれら植物の機巧はなかなか六かしくてよく分らない。
烏瓜の花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
鳳仙花ほうせんかや百日草が咲き、村の子が遊び、にわとりがけけっこっこっこっである。高原の感じである。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
鳳仙花ほうせんかくさむらながめながら、煙管きせる横銜よこぐわえにしていた親仁おやじが、一膝ひとひざずるりとって出て
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
庭の垣根のところには、鳳仙花ほうせんかが長く咲いていた。やがてお俊はそれを折取って来た。しおれた花の形は、美しい模様のように葉書の裏へ写された。その色彩がお延の眼を喜ばせた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
庭には鳳仙花ほうせんかがもう咲いていた。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
あまりに強く、あまりに多いために、ややもすれば軽蔑され勝ちの運命にあることは、かの鳳仙花ほうせんかなどと同様であるが、わたしは彼を愛すること甚だ深い。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
鳳仙花ほうせんかの実が一定時間の後にひとりではじける。あれと似たような武器も考えられるのである。しかしまねしたくてもこれら植物の機巧はなかなかむつかしくてよくわからない。
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
紀州の西部でこれをドクホウジまたはニガイホウジというのも、ホゼと一つの語だったらしいが、今ではその意味を忘れている処も多く、鳳仙花ほうせんかと混じてホセンコなどいう例もある。
「そりゃあね、庭の鳳仙花ほうせんかの中か、裏の玉蜀黍畠とうもろこしばたけにでも連れてきゃよかったんだよ」と私は三高生に笑って見せたが、「それでも下剤薬を飲ましたので通じましたよ」とそのおいがまた笑い出した。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
やがて娘達は、庭の鳳仙花ほうせんかって、縁側のところへ戻って来た。白いハンケチをひろげて、花や葉の液を染めて遊んだ。鳳仙花は水分が多くて成功しなかった。直樹は軒の釣荵つりしのぶの葉を摘って与えた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すすき蓬々ほうほうたるあれば萩の道に溢れんとする、さては芙蓉ふようの白き紅なる、紫苑しおん女郎花おみなえし藤袴ふじばかま釣鐘花つりがねばな、虎の尾、鶏頭、鳳仙花ほうせんか水引みずひきの花さま/″\に咲き乱れて、みちその間に通じ
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
撫子なでしこ石竹せきちく桔梗ききょう、矢車草、風露草、金魚草、月見草、おいらん草、孔雀草、黄蜀葵おうしょっき女郎花おみなえし男郎花おとこえし秋海棠しゅうかいどう、水引、雞頭けいとう、葉雞頭、白粉おしろい鳳仙花ほうせんか紫苑しおん、萩、すすき、日まわり、姫日まわり
薬前薬後 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こんな事を考えたのが動機となって、ふと大根が作ってみたくなったので、花壇の鳳仙花ほうせんかを引っこぬいてしまってそのあとへ大根の種をいてみた。二、三日するともう双葉が出て来た。
鸚鵡のイズム (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
と言って、おまけに添えてくれたのが、珍しくもない鳳仙花ほうせんかの種であった。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)