鳥目てうもく)” の例文
談話はなしが済むと、どんな人でもがついお鳥目てうもくをはずみたくなるものだが、生憎あひにくな事にモツアルトはその折懐中ふところに少しも持合せてゐなかつた。
小助こすけさん、みませんが、それだけれどわたし鳥目てうもくちません。なにしなものではせておくんなさいまし。それだとうにかしますから。」
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
買ふお鳥目てうもく位はありますがな、大の男が餅屋の店先に突つ立つて頬張るのも色氣が無さ過ぎると思つて、ツイ獨り者らしい愚痴ぐちを言つたんですよ
いとはず未明みめいより起出て枝豆えだまめ其外時の物を自身じしん賣歩行うりあるき難澁なんじふをもいとはず孝行盡し候だん幼年えうねんには似合ざる孝心奇特きどく之事に候よつて御褒美はうびとして鳥目てうもく十貫文とらつかはす
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
無暗むやみにあわてた。折りも折、舎内で時計やお鳥目てうもくの紛失が頻々ひん/゜\と伝はつた。私は消え入りたい思ひであつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
それからこん度島へお遣下さるに付きまして、二百文の鳥目てうもくを戴きました。それをここに持つてをります。
高瀬舟 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
釋尊、八幡のうまれ替りとや申さん。日蓮は凡夫なればよくしらず。これしかし、日蓮がまゐらせしゆゑなり。さこそ父母ふぼよろこ給覽たまふらん。誠に御祝として、餅、酒、鳥目てうもく貫文くわんもん送給候畢おくりたまひさふらひぬ
承知しようちだよ、承知しようちだよ。お鳥目てうもくがねえとか、小遣こづかひたねえとかふんだらう。はたらきのねえやつきまつてら、とつてはまないのさ。其處そこはおあきさんだ。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「世の中に何が嬉しいといつたつて、みちで落したお鳥目てうもくが自分の手にかへつた時の気持ほどいゝものはございません。お上人様は御存じでいらつしやいますか。」
二三本の卒塔婆そとばが亂暴に突きさゝれた形ばかりの土饅頭にさぞ雜草が生ひ茂つてゐるだらうことを氣にして、つと墓守に若干のお鳥目てうもくを送つてお墓の掃除を頼んだりした。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
上て回向ゑかうを願ひ度と夫九助へ頼みければ九助も其孝心を感じて今金谷村より歸りし草臥足くたびれあしをもいとはず再び白米五升と鳥目てうもく貫文くわんもんを自身に背負せおひゆき源和尚げんをしやうへ回向を頼みしかば和尚も其志操こゝろざし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それから口の小さい素燒すやき徳利とくりへへちまの水を詰めさしたり、白粉と紅とを取揃へたり、お鳥目てうもくを出さうとして帶の間へ手をやつた時は、先程から我慢して居た恐ろしい眠氣ねむけが急におそつて來て
鳥目てうもくといふものもあつたが、主人の考へでは、あれはひとから貰ふもので、ひとに呉れてやるものではなかつた。——所が、ふと思ひついたのはくだんの巻煙草で、主人はせつせと拾い溜めた。
ある牧師がすつかり上機嫌でいつものやうに、ステツキ小腋こわきに抱へ込んで市街まちをぶらぶら散歩してゐると、ふとみちの片側に乞食が一人衝立つゝたつて、往来ゆききの人にお鳥目てうもくをねだつてゐるのが目についた。
僧侶ばうずの話では、仏様はそんな物よりもお鳥目てうもくの方が好きらしかつたから。