顛動てんどう)” の例文
川並かわなみ人夫のあやつるところの長柄のとびに、その手心は似ているにちがいない。いかだにくめば顛動てんどうする危なかしさもないであろう。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
変を知るや、ここにも驚愕と顛動てんどうと方針の狼狽が起った。とりあえず、信雄は、蒲生家の一女子を人質にとって援軍を派した。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時としてその心を撃って顛動てんどうせしむるあの神秘な恐るべき打撃が、当時彼がふけっていた娯楽や逸楽のさなかに突然落ちかかったのであろうか。
街の上へ出た時、彼は自分で自分が分らなくなるほど顛動てんどうしていた。彼が予期したことはまるで反対の結果になった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
あたかも心が顛動てんどうした如くに、昨日きのう好いと思ッた事も今日は悪く、今日悪いと思う事も昨日は好いとのみ思ッていた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私は、黙って懐中ふところを探しました。さあ、慌てたのは、手拭てぬぐい蝦蟇口がまぐちみんな無い。さまでとも思わなかったに、余程顛動てんどうしたらしい。かどへ振落して来たでしょう。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして、祖父の乱暴と革命的宣言とに心顛動てんどうしていた。重い乗合馬車が通るとき店が揺れるのと同じように、彼のうちではすべてが外界の印象から反響を受けていた。
プツリと言いきって、きつねつきのようにだまり込んでいる。背を丸く首をかしげた姿を見るとどんなに世の荒波がこの善人を顛動てんどうさせ、こうもけさせたかと痛ましかった。
でも暫くすると、母親が気が顛動てんどうしていたのでという意味の詫言わびごとをして、しまりをはずしたので、人々はやっと屋内に入り、恐ろしい殺人事件が起ったことを知ったのである。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「あ、煙が出だした、逃げよう、連れて逃げてくれ」とKはしきりに私をかし出す。この私よりかなり年上の、しかし平素ははるかに元気なKも、どういうものか少し顛動てんどう気味であった。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
という父の言葉をいて居る、僕の心の全く顛動てんどうしたのも無理はないでしょう。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「どうしよう!」と顛動てんどうしたそこを目掛け、荻野八重梅すすめたのである。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
われは両家其位地を顛動てんどうすべしとは信ぜざれども、必らず其産出の上に奇異の現象を生じたりしことを疑はず。難波にては豊公の余威全く民衆の脳漿なうしやうを離れずして、徳川氏の武威深く其精神に貫かず。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
令史れいしすくなからず顛動てんどうして、夜明よあけて道士だうしもといた嗟歎さたんしてふ、まことのなすわざなり。それがしはたこれ奈何いかんせむ。道士だうしいはく、きみひそかにうかゞふことさら一夕ひとばんなれ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「あれに見つかっては」と、曹洪は、気も顛動てんどうせんばかりにあわてた。矢ばしりの中も今は恐れていられなかった。剣を舞わして、矢を縦横にぎ払いながら馳け出した。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一人娘の非業ひごうの最期に気も顛動てんどうして、大切なお客さまルージェール大使一行のことも忘れ、前後の処置も考えず、ただ美しい姫のなきがらに取りすがって、涙にくれていたが
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
右顧左眄うこさべんし、周章狼狽しゅうしょうろうばいした自分たちは、天地も顛動てんどうする大きな変化に身をさらわれた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
横町の怪我けがを見ると、我を忘れたごとく一飛ひととびに走り着いて、転んだつちへ諸共に膝を折敷いて、たすけ起そうとする時、さまでは顛動てんどうせず、力なげに身を起して立つ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
併し、それが果して、顛動てんどうしていた妙子の耳に通じたかどうか。何を考える暇もなく、本能的に飛び出したあとで、始めて子供のことに気づいたという様なことではあるまいか。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
平和に馴れてきた処女おとめの胸には、この世が顛動てんどうしたような衝撃だった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悪魔の所業をにくむよりは、電話口でゾッとする様な、脅迫の文句を喋っている、茂少年の、何ともいえぬ恐ろしい境遇に、気も心も顛動てんどうして、何を考える余裕もなく、電話器にしがみついて
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、顛動てんどうしてさわぎかけたのは、もちろん魚松の夫婦である。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気も顛動てんどうしていたこと、コンクリート作りの洋館のガラス窓が密閉されていたこと、窓から水面までの距離が非常に遠いこと、又仮令水音が聞えたとしても、隅田川は時々徹夜の泥舟などが通るので
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
顛動てんどうしていたが、両手で顔をおおって、起き上ると
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
枕から顛動てんどうして落ちた。
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)