霜降しもふり)” の例文
それは黒の中折なかおれ霜降しもふり外套がいとうを着て、顔の面長おもながい背の高い、せぎすの紳士で、まゆと眉の間に大きな黒子ほくろがあるからその特徴を目標めじるし
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それとは少し違いますけれども私の家では御存知の通り毎日牛肉を配達させますから物の試験に十日間続けて毎日同じ霜降しもふりロースを取った事があります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
霜降しもふり背広に、カラの高い無帽の男で顔はよくわからないが、黒いかばんを両手で抱え込んで、何か考え考え俯向うつむき勝ちの小急ぎに、仄白いサーブ・ラインを横切って来る。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一人は霜降しもふりの背広を着たのが、ふり向いて同じように、じろりと此方こなたを見たばかり。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
西洋の狩猟の絵に見るような黒い鳥打とりうち帽子をかぶり、霜降しもふりの乗馬服に足ごしらえもすっかり本式なのが、むち手綱たづなと共に手に持って、心持前屈まえかがみの姿勢をくずさず、振向きもせずに通り過ぎた。
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
皮を引いたらあまり微塵みじんにせずに、葛もごくうすくねがいます。さて、……ちょうど、わらさの季節だから、削切けずりきりにして、前盛まえもりには針魚さより博多はかたづくりか烏賊いか霜降しもふり。つまみは花おろしでも……
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
せいはスラリとしているばかりで左而已さのみ高いという程でもないが、痩肉やせじしゆえ、半鐘なんとやらという人聞の悪い渾名あだなに縁が有りそうで、年数物ながら摺畳皺たたみじわの存じた霜降しもふり「スコッチ」の服を身にまとッて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
小川町の停留所で洋杖ステッキを大事そうに突いて、電車から下りる霜降しもふり外套がいとうを着た男が若い女といっしょに洋食屋に這入るあとけたくらいのものである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それに以前は内ロースに霜降しもふりロース上等に並肉位よりは区別を知らなかったのです。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ちや鳥打とりうちをずぼりとふかく、たけうへから押込おしこんだていかぶつたのでさへ、見上みあげるばかりたかい。茶羅紗ちやらしや霜降しもふり大外套おほぐわいたうを、かぜむかつたみのよりもひろすそ一杯いつぱいて、赤革あかゞはくつ穿いた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
背後うしろを振り返って私を招き入れると、謹しみ返った態度で外套がいとうを脱いで、扉のすぐ横の壁に取付けてある帽子掛にかけた。だから私もそれにならって、霜降しもふりのオーバーと角帽をかけ並べた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
やがて彼の前に、霜降しもふり外套がいとうを着た黒の中折をかぶった背の高いやせぎすの紳士が、彼のこれから探そうというその人の権威をそなえて、ありありと現われた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
通りへると、ほとんど学生ばかりあるいてゐる。それが、みな同じ方向へく。悉くいそいでく。寒い往来はわかい男の活気で一杯になる。其なか霜降しもふりの外套を着た広田先生の長いかげが見えた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)