雁金かりがね)” の例文
雁金かりがねが寒く来鳴き、新治にいばりの鳥羽の淡海も秋風に白浪立つ頃ともなれば、女は自分が先に立ち奴たちを率いて、裾わの田井に秋田を刈った。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
場所が場所であるし、赤外線男のうわさの高い折柄おりからでもあったので、ただちに幾野いくの捜査課長、雁金かりがね検事、中河予審判事なかがわよしんはんじ等、係官一行が急行した。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかりとはいへども、雁金かりがね可懷なつかしきず、牡鹿さをしか可哀あはれさず。かぶと愛憐あいれんめ、よろひ情懷じやうくわいいだく。明星みやうじやうと、太白星ゆふつゞと、すなはち意氣いきらすとき何事なにごとぞ、いたづら銃聲じうせいあり。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
もとの座敷へ帰ってくると、いつの間にか其処には寝床が延べられて、雁金かりがねった真っ白な蚊帳かやが涼しそうに吊ってあった。このあいだの女がまた何処からか現われた。
半七捕物帳:07 奥女中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「心も晴るる夜半の月、田面たのもにうつる人影にぱつと立つのは、アレ雁金かりがね女夫めおとづれ。」これは畢竟ひっきょう枯荻落雁の画趣を取って俗謡に移し入れたもので、寺門静軒てらかどせいけんが『江頭百詠』の中に
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あめわたる秋の雁金かりがね、春くれば遠き雲井にかりかりと消えて跡なし。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
この喧噪の中に、室の一隅の卓子を占領していたのは大江山捜査課長をはじめ、手練の部下の一団に、それに特別に雁金かりがね検事も加わっていた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
夫人 私はね、群鷺むらさぎみねの山のに、掛稲かけいねたてにして、戻道もどりみちで、そっと立ってながめていた。そこには昼の月があって、雁金かりがねのように(その水色の袖をおさう)その袖に影が映った。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
町中まちじゅうの堀割に沿うて夏の夕を歩む時、自分は黙阿弥もくあみ翁の書いた『島鵆月白浪しまちどりつきのしらなみ』に雁金かりがねに結びし蚊帳もきのふけふ——と清元きよもと出語でがたりがある妾宅の場を見るような三味線的情調に酔う事がしばしばある。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「どうも僕には、事件に関係のない極く普通の燐寸としか考えられないがね」と大江山捜査課長は首を振って「ねえ雁金かりがねさん。そうじゃありませんか」
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ひわくちがちょっと触ってもかすか菫色すみれいろあざになりそうな白玉椿の清らかに優しい片頬を、水紅色ときいろの絹半帕ハンケチでおさえたが、かつ桔梗ききょう紫に雁金かりがねを銀で刺繍ぬいとりした半襟で、妙齢としごろの髪のつやに月の影の冴えを見せ
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
惨死体ざんしたいを乗せた電車は、そのまま回避線かいひせんへひっぱり込まれ、警視庁からは大江山捜査課長一行が到着し、検事局からは雁金かりがね検事の顔も見え、係官の揃うのを待ち
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あの背負揚しょいあげとか言うものの、灯の加減で映るのだろうか、ちらちらと……いや、霧が凝ったから、花片はなびら、緋の葉、そうは散らない、すッすッと細く、毛引けびき雁金かりがねを紅で描いたように提灯に映るのが
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこでいよいよ松山虎夫変死事件の詮議せんぎがはじまることとなった。帆村探偵は、松山たちの動静どうせいにつき、その夜見ていたままを、雁金かりがね検事と、河口かわぐち捜査課長とに説明した。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
雁金かりがね検事、丘予審判事、大江山捜査課長、帯広おびひろ警部をはじめ多数の係官一行の顔がすっかり揃っていた。「お、帆村君、もう来ていたか。電話をかけたが、行方不明だということだったぞ」
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)