険阻けんそ)” の例文
旧字:險阻
尊んで、固く険阻けんそを守り、曹操打倒の永遠の計をなすべきだと存じます。今日、全く天のわれらに与え給うた好機、必ず失うべからずです
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
車は交叉点を横切ると、速力を緩急するたびに乗客を投付けたり、錐揉きりもみの様にしたりしては走り続けた。恰度ちょうど険阻けんそを行く様に波打ったり傾いたりした。
乗合自動車 (新字新仮名) / 川田功(著)
彼の村は、山陽道と山陰道を分ける中国の脊梁せきりょう山脈の北側に、熊笹くまざさを背に、岩に腰をおろしてもたれかかっているような、人煙まれな険阻けんそな寒村であった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
彼も飛騨行きのおくれるのを案じている矢先で、それが延びれば延びるほど、あの険阻けんそで聞こえた山間の高山路が深い降雪のためにうずめられるのを恐れた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
別将の欧陽紇おうようこつは各地を攻略して長楽ちょうらくに至り、ことごとく諸洞の敵をたいらげて、深く険阻けんその地に入り込んだ。
いつもとはことなり、その修行場しゅぎょうば裏山うらやまから、おくおくおくへとどこまでも険阻けんそ山路やまみちりました。
西部諸国では城山の形式がよほど違う。山が険阻けんそで尖っていれば、仕方がないから麓に町が固まる。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
なにしろ、中央山脈ちゅうおうさんみゃくなかでも、黒姫くろひめは、険阻けんそといわれまして、六、七がつごろまで、ゆきがあります。
山に雪光る (新字新仮名) / 小川未明(著)
それから大和やまとへおひきかえしになる途中で、いろんな山の神や川の神や、穴戸あなどの神ととなえて、方々の険阻けんそなところにたてこもっている悪神わるがみどもを、かたはしからお従えになった後
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
御難の辛さ、失恋の辛さ、みんな人生の涙の種にはちがいないけれど、それらに比べてまるで問題にもなにもならなかったほど、この「芸」の四十八坂は険阻けんそだった。難渋だった。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
山中の険阻けんそなる所に、堂々と旗を立て、味方の勢いの壮んなるところを示して、敵の心を惑わすべしと申しつけた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、それらは、いま険阻けんそ山奥やまおくのこっていて、らえられたくまのことをおもしているかもしれませんが、そのくまの故郷こきょうは、だんだんとおくなってしまったのです。
汽車の中のくまと鶏 (新字新仮名) / 小川未明(著)
巡査はの事件以来、日々にちにち通い馴れているので、険阻けんそ山路やまみちも踏み迷わずに、森を過ぎ、岩を越えて、難なく虎ヶ窟の前に辿り着いた。足の達者な忠一は巡査にちっともおくれなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おそらく、あのあに補充兵ほじゅうへいであろうとおもうと、老兵士ろうへいしをして○○攻撃こうげきさいに、自分じぶんた一光景こうけいおもさせるのでした。険阻けんそてき陣地じんち突撃とつげきうつ暫時前しばらくまえのことです。
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
たちまちこのことは、険阻けんそのうちに結集している蛮軍十余万の胃ぶくろに影響した。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)