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陰欝
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いんうつ
ふりがな文庫
“
陰欝
(
いんうつ
)” の例文
小作人たちは
其処
(
そこ
)
で再び彼等独有な、祖先伝来の永遠の労苦を訴へるやうな、地を
匍
(
は
)
ふやうに響く、
陰欝
(
いんうつ
)
な、退屈な
野良唄
(
のらうた
)
を唄ひ出した。
新らしき祖先
(新字旧仮名)
/
相馬泰三
(著)
陽気な声を無理に圧迫して
陰欝
(
いんうつ
)
にしたのがこの遠吠である。
躁狂
(
そうきょう
)
な響を
権柄
(
けんぺい
)
ずくで沈痛ならしめているのがこの遠吠である。自由でない。
琴のそら音
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
そこが此のうちの一番奥に当る部屋だが、そこを天願氏がゆびさして
陰欝
(
いんうつ
)
な顔をした。私は思わずその方向をふり返った。
風宴
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
そして眼つきがおそろしく
据
(
すわ
)
ったようになって、そうなくてさえ、平常から
陰欝
(
いんうつ
)
になりがちの顔が、一層恐い顔になった。
狂乱
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
成程
(
なるほど
)
一家
(
いつか
)
の
中
(
うち
)
に、體の弱い陰氣な人間がゐたら、
他
(
はた
)
の者は面白くないに
定
(
きま
)
ツてゐる。だが、
虚弱
(
きよじやく
)
なのも
陰欝
(
いんうつ
)
なのも
天性
(
てんせい
)
なら仕方がないぢやないか。
青い顔
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
▼ もっと見る
風はピッタリやんでしまって、
陰欝
(
いんうつ
)
な
圧
(
お
)
しつけられるような夏雲に、
夕照
(
ゆうやけ
)
の色の胸苦しい夕ぐれであった。
駅夫日記
(新字新仮名)
/
白柳秀湖
(著)
陽は、もう丘の稜線に沈み
懸
(
かか
)
って、
陰欝
(
いんうつ
)
な雲の
裂目
(
さけめ
)
から、鉱区の一部をあの血の様な色に染めていた。
雲南守備兵
(新字新仮名)
/
木村荘十
(著)
それは、今までのような乱暴をしただけでは治まりのつきそうもない、いやに
陰欝
(
いんうつ
)
な反感だった。
次郎物語:01 第一部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
陰欝
(
いんうつ
)
や不幸はどこにもなく、活力にみちた肉塊が音楽に洗われつづけている。リズムは彼のなかにあった。だが、信二は快楽を全身に行きわたらせることができなかった。
その一年
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
まだ?——しかし玄鶴は置き時計を見、
彼是
(
かれこれ
)
正午に近いことを知った。彼の心は一瞬間、ほっとしただけに明るかった。けれども又いつものように
忽
(
たちま
)
ち
陰欝
(
いんうつ
)
になって行った。
玄鶴山房
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
陰欝
(
いんうつ
)
な薄暗がりが、海上にはい出たために、
右舷
(
うげん
)
に
尻屋岬
(
しりやみさき
)
の燈台が感傷的にまたたき初めた。荒れに荒れる海上に、燈台の光をながむるほど、人の心を感傷的にするものはない。
海に生くる人々
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
西田の声がして家のなかの空気は見るまに
変
(
か
)
わってしまった。
陰欝
(
いんうつ
)
な空気が見るまにうすらぐような気がした。糟谷は
手短
(
てみじか
)
にきょうのできごとから目の前の
窮状
(
きゅうじょう
)
を西田に
語
(
かた
)
った。
老獣医
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
陰欝
(
いんうつ
)
に
唖々
(
ああ
)
と鳴き交すその声は、丘の兵舎にまで、やかましく聞えてきた。
渦巻ける烏の群
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
これ天地もかかる道徳堅固の尊者を無残にも水中に投じて死刑に処するということを悲しむにやあらんと思われるほど、空の色も
陰欝
(
いんうつ
)
として哀れげなる光景を呈して居ったそうでございます。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
富岡は、清吉を
陰欝
(
いんうつ
)
孤独な性格だと弁護士が云つてゐた言葉を、何だか信じがたい気持ちだつた。——考へまいとしても、富岡は、仕事の最中にも、清吉のにこにこしてゐた顔が眼に浮ぶのである。
浮雲
(新字旧仮名)
/
林芙美子
(著)
しばらくは
宅中
(
うちじゅう
)
に玩具箱をひっくり返して、数を尽して並べても「
真田
(
さなだ
)
三代記」や「甲越軍談」の絵本を幼い手ぶりで
彩
(
いろど
)
っても、
陰欝
(
いんうつ
)
な家の空気は遊びたい盛りの坊ちゃんを長く捕えてはいられない。
山の手の子
(新字新仮名)
/
水上滝太郎
(著)
緑の色調が
陰欝
(
いんうつ
)
で、あまりいい感じがしなかった。
京の四季
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
こんな
陰欝
(
いんうつ
)
な
眉
(
まゆ
)
や額が代表するよりも、まだましな温たかい情愛を、血の中に流している今の自分から推して、あんなに冷酷に見えた父も
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
俺
(
おれ
)
の方が
怜悧
(
れいり
)
になると、お前は涙といふ武器で俺を苦しめるんだからな。
雖然
(
けれども
)
近
(
ちか
)
、
斷
(
ことは
)
ツて置くが、
陰欝
(
いんうつ
)
なのは俺の性分で、
書
(
しよ
)
を讀むのと考へるのが俺の生命だ。
青い顔
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
僕は、ここにも生活はない、と思い初めていた。けれどもそこは、学生とちがったところがあった。真剣だった。そして、だれもが、心の底になにか雪雲のように
陰欝
(
いんうつ
)
なものをたくわえていた。
海に生くる人々
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
皇室の御紋章を染め抜いた紫
縮緬
(
ちりめん
)
の
幔幕
(
まんまく
)
や、爪を張つた
蒼竜
(
さうりゆう
)
が身をうねらせてゐる支那の国旗の下には、花瓶々々の菊の花が、或は軽快な銀色を、或は
陰欝
(
いんうつ
)
な金色を、人波の間にちらつかせてゐた。
舞踏会
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
私には私の心を
腐蝕
(
ふしょく
)
するような不愉快な
塊
(
かたまり
)
が常にあった。私は
陰欝
(
いんうつ
)
な顔をしながら、ぼんやり雨の降る中を歩いていた。
硝子戸の中
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
私は軽快な心をもって
陰欝
(
いんうつ
)
な倫敦を眺めたのです。
比喩
(
ひゆ
)
で申すと、私は多年の間
懊悩
(
おうのう
)
した結果ようやく自分の
鶴嘴
(
つるはし
)
をがちりと鉱脈に
掘
(
ほ
)
り当てたような気がしたのです。
私の個人主義
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
ただ腹の底ではこの先自分はどうなるだろうと思って、人知れず
陰欝
(
いんうつ
)
な日を送ったのであります。
私の個人主義
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
兄の
機嫌買
(
きげんかい
)
を子供のうちから知り抜いている彼らにも、近頃の兄は不思議だったのである。
陰欝
(
いんうつ
)
な彼の調子は、自分が下宿する前後から
今日
(
こんにち
)
まで少しの晴間なく続いたのである。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
端書に満足した僕は、彼の封筒入の
書翰
(
しょかん
)
に接し出した時さらに
眉
(
まゆ
)
を開いた。というのは、僕の恐れを
抱
(
いだ
)
いていた彼の手が、
陰欝
(
いんうつ
)
な色に巻紙を染めた
痕迹
(
こんせき
)
が、そのどこにも見出せなかったからである。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
陰
常用漢字
中学
部首:⾩
11画
欝
部首:⽊
25画
“陰”で始まる語句
陰
陰鬱
陰影
陰気
陰翳
陰陽師
陰氣
陰陽
陰々
陰謀