門附かどづけ)” の例文
二年三年とたつうちに瞽女は立派な専門の門附かどづけになって「春雨」や「梅にも春」などを弾き出したがするうちいつか姿を見せなくなった。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「ああ、山国の門附かどづけ芸人、誇れば、魔法つかいと言いたいが、いかな、さまでの事もない。昨日きのうから御目に掛けた、あれは手品じゃ。」
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
尚中國地方などでは座に屬さずに路傍で一人遣ひの單純な操を演じて廻る門附かどづけの人形操の獨立した一團が相當に存在してゐる。
「また僕に紙腔琴シャルマンカが何になるんです? 僕は、あんなものを肩にかけて門附かどづけをして歩くドイツ人とは違いますからねえ。」
八年まえ大学を卒業してから田舎いなかの中学を二三箇所かしょ流して歩いた末、去年の春飄然ひょうぜんと東京へ戻って来た。流すとは門附かどづけに用いる言葉で飄然とは徂徠そらいかかわらぬ意味とも取れる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
逗留客が散歩に出る。芸妓げいしゃが湯にゆく。白い鳩がをあさる。黒い燕が往来おうらいなかで宙返りを打つ。夜になると、蛙が鳴く。ふくろうが鳴く。門附かどづけの芸人が来る。碓氷川うすいがわ河鹿かじかはまだ鳴かない。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
父が尺八の師であった青梅鈴法寺れいほうじの高橋空山が、ふと門附かどづけに来て吹いた「竹調べ」が、ついにわが父をして短笛たんてきというものに、浮身をやつすほどのあこがれを持たしめてしまったことです。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あゝ、山国やまぐに門附かどづけ芸人、誇れば、魔法つかひと言ひたいが、いかな、までの事もない。昨日きのうから御目おめに掛けた、あれは手品ぢや。」
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
物貰い門附かどづけ幾人などと記してあったが、これ等は町の角や、カフエーの前の樹の下などに立たずんで人を待っている間に鉛筆をはしらしたものである。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それから甲州街道の宿々を、弁信法師は平家をうたって門附かどづけをして歩きます。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
父娘おやこただ、紫玉の挙動ふるまいにのみ気をられて居たらう。……此の辺を歩行ある門附かどづけ見たいなもの、と又訊けば、父親がつひぞ見掛けた事はない。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
雨はいつかんで、両側とも待合つづきの一本道には往来ゆききする足駄あしだの音もやや繁くなり、遠い曲角まがりかどの方でバイオリンを弾く門附かどづけの流行唄が聞え出した。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そぞろに門附かどづけを怪しんで、冥土めいど使つかいのように感じた如きは幾分か心が乱れている。意気張いきばりずくで死んで見せように到っては、益々ますます悩乱のうらんのほどが思いられる。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おいら達の仲間入をして門附かどづけになろうッて言うのか。
墨染の麻の法衣ころもれ破れななりで、鬱金うこんももう鼠に汚れた布に——すぐ、分ったが、——三味線を一ちょう盲目めくら琵琶びわ背負じょい背負しょっている、漂泊さすら門附かどづけたぐいであろう。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
福井 おらアもう門附かどづけもいやになった。
墨染すみぞめあさ法衣ころもれ/\ななりで、鬱金うこんねずみよごれた布に——すぐ、分つたが、——三味線しゃみせんを一ちょう盲目めくら琵琶背負びわじょい背負しょつて居る、漂泊さすら門附かどづけたぐいであらう。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
段へ、すそを投げ出して、欄干らんかんにつかまった時、雨がさっと暗くなって、私はひとりで泣いたんです。それッきり、声も聞えなくなって、門附かどづけ何処どこへ参りましたか。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……案ずるに我が家の門附かどづけ聞徳ききどくに、いざ、その段になった処で、くだんの(出ないぜ。)をめてこまそ心積りを、唐突だしぬけに頬被を突込つッこまれて、大分狼狽うろたえたものらしい。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また一面から見れば、門附かどづけ談話はなしの中に、神田辺かんだへんの店で、江戸紫えどむらさきの夜あけがた、小僧がかどいている、納豆なっとうの声がした……のは、その人が生涯の東雲頃しののめごろであったかも知れぬ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
縁日かせぎ門附かどづけも利かない気で、へべれけの愛吉が意にさからい、あたいを払わなければわざは見せぬ、おあしがなくっていて、それでたってすごい処を聞きたいなら、さきに立って提灯ちょうちんは持たずとも
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)