金鍔きんつば)” の例文
つまらない、せばいいのにと思った。気の毒だと思った。それでも清は可愛がる。折々は自分の小遣こづかいで金鍔きんつば紅梅焼こうばいやきを買ってくれる。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……余程よっぽど曳船へ廻りたかった。堅豌豆ぬきの精進揚か、いや、そんなものは東海会社社長の船には積むまい。豆大福、金鍔きんつばか。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こんな塩梅あんばいに児供の時分から少し変っていたので、二葉亭を可愛がっていた祖母おばあさんは「この子は金鍔きんつばすかこもるかだ、」
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
其代りね、金鍔きんつばを髮結錢位と思つて買つてやるんですが、それがどれ程いゝ心持なんですかね、其の嬉しい容子を見ちやなんでなくつても買つて遣るのが惜しかありませんね。
おふさ (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
男の名は金鍔きんつば次兵衛の通り名で日本全土に知られてゐたが、その本名は誰も知らない。
わが血を追ふ人々 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
たとえばやはり同じ『灰汁桶あくおけ』の巻で、芭蕉の「ひる口処くちどをかきて気味よき」や「金鍔きんつば」や「加茂の社」のごときはなかなか容易に発見されるような歯車の連鎖を前々句に対して示さない。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
金鍔きんつばをもう一つというので、定公め、なかなか腰を上げないのだが、べつに急ぐこともないので、幸吉もついそのまま、のんべんだらりと茶店に根を生やしていると……めずらしい晴天だから
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
金鍔きんつば二錢にひやく四個よんこあつた。四海しかいなみしづかにしてくるまうへ花見はなみのつもり。いやうもはなしにならぬ。が意氣いきもつてして少々せう/\工面くめんのいゝ連中れんぢうたれ自動車じどうしや……ゑんタクでもい。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たもとからおみやげの金鍔きんつばと焼きぐりを出して余のノートを読んでいる机のすみへそっとのせて、便所へはいったがやがて出て来て青い顔をして机のそばへすわると同時に急にせきをして血を吐いた。
どんぐり (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
四人目のトメイ次兵衛は金鍔きんつば次兵衛(又は次太夫とも云ふ)の名によつて当時天下を聳動しょうどうさせた人物で、神出鬼没を極め、切支丹伴天連の妖術使ひと信じられて、九州諸大名の軍勢数万人を飜弄した。
小銅五厘なり、交番へ届けると、このおさばきが面白い、「おはん金鍔きんつばを食うがかッ。」勇んで飛込んだ菓子屋が、立派過ぎた。「余所よそへ行きな、金鍔一つは売られない。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのうへ、金鍔きんつば次兵衛が登場したとも言はれてゐる。
島原の乱雑記 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
いささか気障きざですが、うれしい悲しいを通り越した、辛い涙、渋い涙、鉛の涙、男女の思迫おもいせまった、そんな味は覚えがない、ひもじい時の、芋の涙、豆の涙、あんぱんの涙、金鍔きんつばの涙。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
淺草あさくさでも、銀座ぎんざでも、上野うへのでも——ひと往來ゆききみせかまへ、千状萬態せんじやうばんたい一卷ひとまき道中だうちう織込おりこんで——また内證ないしようだが——大福だいふくか、金鍔きんつばを、かねたもとしのばせたのを、ひよいとる、早業はやわざ
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ついでにお茶請の御註文が、——栄太楼の金鍔きんつばか、羊羹ようかん真平まっぴらだ。芝の太々餅だいだいもちかんばしくって歯につかず、ちょいといいけれど、みちが遠いから気の毒だ。岡野のもなかにて御不承なさるか。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここに金鍔きんつば屋、荒物屋、煙草たばこ屋、損料屋、場末の勧工場かんこうば見るよう、狭い店のごたごたと並んだのを通越すと、一けん口に看板をかけて、丁寧に絵にして剪刀はさみ剃刀かみそりとを打違ぶっちがえ、下に五すけと書いて
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)