かさ)” の例文
それは遠方の大木と同様の大きさに見ゆれど、しかもそのかさにおいても、その局部においても、後者とはまったく一致せざるはずなり。
それはちょうど中に胴というもののないひな人形を寝かせたようなのである。髪は多すぎるとは思われぬほどのかさで床の上にあった。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その語は極めて解きやすし、もし人ありて慈悲心をもて父母ちちはは乃至ないし世の病人なんどに水を施さば、仮令たといそのかさ少くしてわずかてのひらむすびたるほどなりとも
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
第一、そんなことにしてからが味よりもかさで、すぐ少ないの多いの唄にまで歌ってやがる贅六ぜいろく根性がかたじけない。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
遊廓問題に行き悩んでゐる府知事の智慧袋ちゑぶくろのやうに、かさの小さい鴉のしんの臓は、この怖ろしい出来事に出遭つてうにも持堪もちこらへる事が出来なかつたのだ。
広栄のいるへや背後うしろふすまいて、円髷まるまげの肉づきのいい背の高い女が出て来た。それがお高であった。お高は長方形の渋紙に包んだかさばった物を抱いていた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
俗に「耳白みみしろ」という文銭をり出しては箱に入れて集めておられ、それがたまり貯りして大変なかさになっていたのを、蔵の中にある穴蔵の中へ入れてありました。
女は荷物パツケをおれに持たせて置いて二人の二等の往復切符を買つた。荷物パツケかさの割に軽いものである。おれは女がなぜこんな荷物パツケを持つて出掛けるのか解らなかつた。
素描 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
おもての窓の部屋に、硝子ガラス戸の戸棚と小引出しがずっとならんでいたが、おしょさんの連合つれあい商業しょうばいは眼鏡のわくとレンズを問屋へ入れるだけで、商品がかさばらない商業だった。
羽毛のような雪を浮かべてかさを増した三またの瀬へ、田安殿の邸の前からざんぶとばかり、水煙りも白く身を投げた荷方の仙太郎は、岸に立って喚いた彦兵衛の御用の声に
セエラはよくベッキイに与えるために、かさのない何か変った食物を探し歩きました。初めて肉饅頭ミート・パイを買って帰った時には、セエラはいいものを見付けてきたと思いました。
が、走り出す前に、彼は「23」のポケットへ何かかさばったものを押込んで行ったのです。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
それは分厚い一トたばにもなる反古のかさだったので、ふたりしてこれを整理翻読ほんどくしたすえ、帖に編集したものが、すなわち後世に長く読みつたえられてきた古典「徒然草つれづれぐさ」になったのだった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼にとつてこの種の調度品は、かさと重みがありすぎた。
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
しかし何かかさのある物かげであった。
三階の家 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
着物の裾の重なりばかりがかさ高くて、その人は小柄なほっそりとした人らしい。この姿も髪のかかった横顔も非常に上品な美人であった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
二人の旅人が下手しもてから来て、涼亭の口で村の男とれ違って入って来る。その一人の甲は、こもで包んだかさばった四角なつつみを肩に乗せ、乙は小さな竹篭たけかごを右の手に持っている。
刻々にかさをまして、胸をひたし、首へせまり——ぬけ出るみちといっては、高い天井に、落ちてきたときの堅坑たてあなが、細くななめに通じているだけ、この生きうめの穴蔵が水びたしになっては!
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ここでは丈の高い枯れた雑草のかげなどに深く積もったものはかさが高くなるばかりでこし白山はくさんをそこに置いた気がする庭を、今はもうだれ一人出入りする下男もなかった。
源氏物語:15 蓬生 (新字新仮名) / 紫式部(著)
始終ながめていねばならぬ御殿の住人たちの恨みがかさんでいくのも道理と言わねばならない。
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)