跛足びつこ)” の例文
さう言ふ飴屋の甚助は、三十四五のまだ若い男で、少々跛足びつこで、蒼黒くて、碁は強いかもわかりませんが、人間は恐しく弱さうです。
ところがあなたの眼はヷルカンを見てゐる——正眞正銘しやうしんしやうめいの鍛冶屋で、色が黒くて、肩幅の廣い。おまけに盲目めつかち跛足びつこときてる。
昌作は聞かぬ振をして、『英吉利の詩人にポープといふ人が有つた。その詩人は、佝僂せむし跛足びつこだつたさうだ。人物の大小は體に關らないさ。』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
マラソン競走の優勝者、仏蘭西フランス領アルジェリイ生れのエルアフイは少しばかり跛足びつこを引きながら地下室の浴場に入つた。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
店に居る力三もその又下の跛足びつこな哲も呼び入れて、何処にしまつてあつたのか美味おいしい煎餅の馳走をしてくれたりした。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
みつ此間こなひだ機械體操とかで右の足に怪我をしたのだけど、これつぱかりのことで休んでなるものかなんて、繃帶はうたいして跛足びつこ引き/\學校へ行つてゐるよ。
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
驚怖きやうふあま物陰ものかげ凝然ぢつ潜伏せんぷくしてとりつぎあさやうやとりむれまじつてあるいたけれどいくらかまだ跛足びつこいてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
すると、今までトルストイの手元ばかり見詰めてゐた乞丐こじきは、吃驚びつくりして跛足びつこをひきひき、宿無しいぬのやうに直ぐ前の歴山アレキサンダー公園の樹蔭こかげに逃げ込んでしまつた。
しかし榊の枝がざら/\と袖に觸れて鳴つただけ、腰も拔けなければ、跛足びつこになることもなかつた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
が、お前様めえさま手際てぎはでは、昨夜ゆふべつくげて、お天守てんしゆつてござつた木像もくざうも、矢張やつぱりおなかたではねえだか。……寸法すんぽふおなじでもあしすぢつてらぬか、それでは跛足びつこぢや。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
世の中にはお前さんなどよりも数等かぬ体で、立派な事業を為た人はいくらもある。盲目めくらで学者になつた塙検校はなはけんげうと言ふ人も居るし、跛足びつこで大金持に為つた大俣おほまたの惣七といふ男もある。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
タミの後から跛足びつこをひきながらやつて来るのは父親の源治であつた。
押しかけ女房 (新字新仮名) / 伊藤永之介(著)
跛足びつこを引いて居るのでせう。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
甚助は跛足びつこなんか引かないし、角左衞門は鳥眼なんかぢやないよ。道の眞ん中に置いた材木を、ポンと飛び越して行つたくらゐだもの
棺の後ろには位牌を持つた跛足びつこの哲が、力三とお末とのはき古した足駄をはいて、ひよこり/\と高くなり低くなりして歩いて行くのがよく見えた。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
説明する前にはつきりと申上げますがね、もし僕があなたをおたすけするとすれば、それは盲人めくら跛足びつこを援けると同じ事だといふ僕の注意を忘れないで下さい。
幼い時竹片を持つて遊んでゐると、蛙がぎやア/\鳴くので、其の悲しさうな聲をたよりに竹片で雜草の中を叩き𢌞ると、蛇に呑まれかけた蛙が、跛足びつこ引き引き危いところを逃げて行つた。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
トルストイは直ぐ眼の前に、跛足びつこ乞丐こじきが立つてゐるのを見た。施し物をしようとして、彼がポケツトに手を突込つきこむだ一刹那、要塞のなかから重い靴音を引摺りながら一にんの番兵が顔を出した。
すると弟の跛足びつこ多見治たみぢは、——たうとうやつたのか——と變なことを言ひました。美しい内儀のお若さん、あれは大した女ですね。
跛足びつこでしなびた小さい哲も、家の中に暖かみと繁盛とをもたらす相ではなかつた。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
「あなたが世話を見てやらなくてはならない、二十も年上の跛足びつこの男とでも?」
今にも跛足びつこを曳きさうな足取りをしながら、お光は言つた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「至つて丈夫でしたが、唯、二三年前から輕い中風の氣味で、左の腕と足が重いやうだと申し、氣をつけて見ると、少し跛足びつこを引いて居りました」
跛足びつこだつた筈の辰三は、跛足でも何んでもなく、その逃げ足の素早さには、平次も彌次馬も追ひ付けさうにありません。
「髷切の曲者は、お武家でございますよ、——立派なお武家で、四十五六にもなりますか、背の低い、少し跛足びつこですが、恐ろしい體術でございます」
ガラツ八の手の中に、一と握りになつたのは、見る影もない女、跛足びつこ大燒痕おほやけどの、あの下女のおゑつだつたのです。
八五郎の頭には、初めて智慧がひらめきました。曲者はこの跛足びつこ眇目めつかちの、不景氣な巾着切の外にはありません。
跛足びつこは右と左を間違へなきア滅多に知れつこはねえが、三月の間、髮へほこりすゝを塗りこくつた辛抱には驚いたよ
まだ三十五六といふのに、眇目めつかち跛足びつこで、虫喰ひ頭の禿はげちよろで、まことに見る影もない男だつたのです。
「槍の穗は、少しばかりのあかりを目當に投つて見事狙ひが狂つたが、目のまだ見える時見定めて置いた臼を使つての細工は、少し跛足びつこでも眼が不自由でも出來る」
「それは有難い、宜い話を聽いた、——八、跛足びつこで背の低い體術の名人といふのをお前は知つて居るか」
お吉は躍起やくきと抗辯しました。お菊より二つ年上ですが、跛足びつこのせゐか小柄で、お淺お菊姉妹には比べられないにしても、お樂が化物娘といふほどみにくくはありません。
繼父彌助の連れ、歳はお菊より二つ上の二十歳はたちですが、跛足びつこで不きりやうで、餘り店へも出さないやうにしてゐる、お吉と一緒に錢湯へ行つて、速中まで歸つて來たところを
「足は中年からの骨のわずらひで、ひどい跛足びつこを引けば、歩けないことはありません」
此邊には跛足びつこも片輪も居ないから、うんと大きいか、法外に小さい足跡だらう。月の光でそれと氣がついて、その血の足跡を隱すために、雜巾で拭いた上壁へも床へも滅茶に血を塗つた。
「當り前よ、——が、待てよ、宗太郎は此處を出る時、跛足びつこを引いて居たか」
最後の客が、まだ二三人殘つて居るうちから、跛足びつこの木戸番が、もう二人の若い男と一緒に客席へ降りて、土間に敷いた薄縁と筵を剥ぎ、その跡をざつといて、彼方此方の灯を消し廻ります。
「あつしと互先ですよ、——居留木さんの隣は飴屋の甚助で、これは三十五六の男盛りだが、弱氣ではにかみ屋で、少し跛足びつこで、遊びも道樂も知らない變人だ。碁の強いのは見つけもので、あつしが二目置かされる」
その少し跛足びつこを引く後姿を見送つて
跛足びつこはどうする」