語彙ごい)” の例文
この意味および言語は実にフランス国民の存在を予想するもので、他の民族の語彙ごいのうちにもとめても全然同様のものは見出し得ない。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
それは単に語彙ごい中のあるもののみならず、その文法や措辞法に、東西を結びつける連鎖のようなものを認める、と思ったからである。
御様子は段々私が来てから一週間であるが、その間にも気付かぬ位ずつ語彙ごいも殖えて来られ、長い文句を仰云るようになりました。
西洋古代の宗教文学に関する語彙ごいは、三十年代になっても、繰り返された。それが後には「花詞」と選ぶ事のない程安易な物になったが。
詩語としての日本語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
実際の土地利用者、ことに最もよく働いた開墾者たちは、別にこの語彙ごい以外をもって彼等の用語を考案しなければならなかったのである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼の言葉によると世にもいみじき『贅物シュペルフリュ』だったとのこと——おおかた彼の語彙ごいでは、この言葉が最高度の完璧を意味しているのであろう。
ただ、彼らの語彙ごいははなはだ貧弱だったので、最もむずかしい大問題が、最も無邪気な言葉でもって考えられておった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
が、そんな困難に辟易へきえきするようでは、上は柿本人麻呂かきのもとひとまろからしも武者小路実篤むしゃのこうじさねあつに至る語彙ごいの豊富を誇っていたのもことごとく空威張からいばりになってしまう。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
語彙ごいが貧弱だから、ペンが渋るのである。遅筆は、作家の恥辱である。一枚書くのに、二、三度は、辞林を調べている。嘘字か、どうか不安なのである。
自作を語る (新字新仮名) / 太宰治(著)
これらの語彙ごいはすべて朴訥な愛情の表現である。その証拠に令嬢はこういった後で客の肩へしたたかみ付いた。
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それと同じ表現を新吉の持つだけの語彙ごいを使って私が入院させた病院のベッドの上でせいぜい私に云ってみた。
真夏の幻覚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かえって鴎外のつかう語彙ごいくらい色感の強いものは、ほかの文学者には見当らぬほどである。
翻訳の生理・心理 (新字新仮名) / 神西清(著)
ライラ Lyra 号の艦長ホールの『航海記』(一八一七年、文化十四年倫敦ロンドン版)には大尉クリッフォード Clifford の編纂した琉球語彙ごいが附録されている如く
肝腎かんじんな形容詞や動詞をすっかり胴忘れてしまっているので、私は自分の空想力でやっとそれを補いながら読んでみたのであるが、どうもそんな私に分かる語彙ごいだけから見ると
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「だから悲劇のみ芸術である」なぞと言われるのもいささか心外であるために、ず、何の躊躇ためらう所もなく此の厄介な「芸術」の二文字を語彙ごいの中から抹殺して(アア、清々した!)
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
と菊太郎君は語彙ごいの狭い男だから、縁起の悪いものばかり引き合いに出した。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
矢絣というのも現代には縁遠いがらで、歌舞伎芝居の腰元の衣裳などを思出させる古風な代物だが、老年の片輪乞食は、この我々には寧ろ難解な語彙ごいをちゃんと心得ていて、さも昔懐しげな様子で
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さらばこそ万葉古今の語彙ごいは大正昭和の今日それを短歌俳句に用いてもその内容において古来のそれとの連関を失わないのである。
俳句の精神 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これは地理学の要求から言っても、将来必ず標準語として採用し、我々の語彙ごいを豊富にしなければならぬものである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
殊に現在の保吉は実際この幸福な中尉の顔へクラフト・エビングの全語彙ごいを叩きつけてやりたい誘惑さえ感じた。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
必要な表現が、彼女の貧弱な語彙ごいに無いからばかりでなかった。興味の湧くまで心を集注する熱が、何だか胸の辺で欠乏している。そういう感じであった。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
泣菫の語彙ごいを批評した鉄幹は、極めて鄭重ていちょうな言い廻しではあるが、極めて皮肉な語気を以て噂した(明星)。
詩語としての日本語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
私の貧弱な語彙ごいってしては、ちょっと見つかりそうもありませんから、ただ、私の赤貧の生立ちと比較して軽く形容しているのだと解して、おしのび下さい。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
鬼ばばあ、くたばっちまえ——、という第一でそれは始まり、相当な無頼漢でも思い及ばないような、豊富な語彙ごいを駆使してのろいと悪罵あくば嘲弄ちょうろうをあびせかける。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
豊富な語彙ごいを覚えて、その口の利き方は知性的なこの少年の顔とり合って、物ごとを持って廻る言い振りをしながらその間に巧に始末をつける智恵者の面影を見せて来ました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
小説に用いる語彙ごいも我々の日常の語彙も全く同様のもので、むしろ日常用うる以外の難解な語やすでに忘れられた死語やひねくれた美辞麗句を用いることは芸術をあやまる危険をもつ。
ただこの昔語むかしがたりの主人公がその女主人公に見出した魅力を、我々がこの島の肌黒くたくましい少女どもに見出しがたいだけのことだ。一体、時間という言葉がこの島の語彙ごいの中にあるのだろうか?
もっと思い切って、たとえばアフリカへ飛んで Chikaranga の語彙ごいを当たると、ちょっと当たっただけで
たとえば仙台の語彙ごいと用語法とを集めて方言集と題するのが、当を得ているか否かが疑われる。自分は仙台にくるたびにこの都会の都会らしさを感ずる。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
昂軒は顔を赤黒く怒張させ、拳をあげて、「卑怯者、臆病者、侍の風上にもおけないみれん者」などとののしった。あんまり語彙ごいは多くないとみえ、同じ言葉を繰返しどなり続けた。
ひとごろし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かねて習い覚えて置いた伝法でんぽう語彙ごいを、廻らぬ舌に鞭打むちうって余すところなく展開し、何を言っていやがるんでえ、と言い終った時に、おでんやの姉さんが明るい笑顔で、兄さん東北でしょう
服装に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
(柳田先生、歳時習俗語彙ごい)又おなじ語彙に、丹波中郡で社日参りというのは、此日早天に東方に当る宮や、寺又は、地蔵尊などに参って、日の出を迎え、其から順に南を廻って西の方へ行き
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
そういうグループの作家の語彙ごいには非常に「苦悩」とか「汚辱」とかいう言葉が多くつかわれます。その代表的なのが、高見順の「わが胸の底のここには」という『新潮』に連載されている作品です。
一万種の語彙ごいがあるとしてその中からたった七語の錯列パーミュテーションを作るとすると約十の二十八乗だけの組み合わせができるが
蒸発皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私が目下分類に着手している『児童語彙ごい』には、明白に児童しか使わぬというものだけを載せることにしているから、十分な証明をすることが出来ない。
もしかかるときおわきが側にいると、彼女は色をして喚きたてる。言葉は勿論もちろんごく上品であって、ときに語彙ごいの狂いはあるが、然し武家の風格を崩さないことは云うまでもない。
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もし啓蒙的けいもうてきな新詩語彙ごいと言うようなものが出来れば、そういう言葉を多く見出し、それらの言葉の中から、明治以後の詩人がどう言う言葉を好み、どういう傾向に思想を寄せていたかと言う事が
詩語としての日本語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
周さんの語彙ごいを借りて言えば、伊達藩の der Stutzer, また、津田氏の言にしたがえば、田舎いなかダンディ、そんな感じのいやに尊大ぶった男で、はじめは教室でも神妙らしくしていたが
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
限定され、そのために強度を高められた電気火花のごとき効果をもって連想の燃料に点火する役目をつとめるのがこれらの季題と称する若干の語彙ごいである。
俳句の精神 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この状態であるから『新撰字鏡しんせんじきょう』とか『和名鈔』とかいう平安朝の語彙ごいの中には、山扁土扁などの語ははなはだ少ないので、せいぜいで五十か七十はあろうが
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
江戸は言葉がぞんざいなことは知っているがおまえのは桁外けたはずれじゃないか、ふざけた糸瓜だ、晩飯を食わせる、蒟蒻玉頑てき頓痴気、とうてい武士の口にすべきたぐいの語彙ごいではない
評釈勘忍記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
以上のような漠然ばくぜんたる想像——もちろんこれは今のところただ一つの想像に過ぎない——に刺激されて、まず手近なマライ語の語彙ごいに目を通す事を試みた。
分類農村語彙ごいにも一通りは出ていることだが、地方ではかえってそうとは知らない人が多いかもしれない。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
正真正銘の木彫り人形だとわかったとき、姐さんは屈辱の余り歯がみをして、下賤きわまる言を口走られた、それはとうていここに紹介しがたき語彙ごいに属する。そこへ女中の一人が走って来た
神歌と我々は訳しているが、現に祭事以外の目的に製作せられたものが稀ならずあり、用字法がやや現代と異なる故に、今日の耳には通じない語彙ごいも若干ある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
われわれの役目はただそれらの怪異現象の記録を現代科学上の語彙ごいを借りて翻訳するだけの事でなければならない。この仕事はしかしはなはだ困難なものである。
怪異考 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
序 諸君の『食習採集手帖』が整理せられたら、この語彙ごいはまた大いに増加することであろうが、それを促す意味をもって、まず自分の今までに控えておいたものを並べてみる。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その語彙ごいの中に連想と暗示の極度な圧縮が必要であるということ、それからまたそういう圧縮が可能となるための基礎条件として日本人のような特異な自然観が必要であること
俳句の精神 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
統計を取ってみたわけではないが、試みに枕詞の語彙ごいを点検してみると、それ自身が天然の景物を意味するような言葉が非常に多く、中にはいわゆる季題となるものも決して少なくない。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そういう意味で私は、「春雨」も「秋風」も西洋にはないと言うのである、そうして、こういう語彙ごい自身の中に日本人の自然観の諸断片が濃密に圧縮された形で包蔵されていると考えるのである。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)