虎口ここう)” の例文
にもかゝわらず虎口ここうを脱したのは、憎まれる半面にそれだけ惜しまれてもいたのであろうが、一つには彼の気転と才智とに依るのである。
虎口ここうに似た湾外へ、寺船の帆はうすれ出している。しかも数十艘の舟手は、なお送り狼のように、知夫ちぶきじヶ鼻へんまで尾行していた。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
虎口ここうに入らずんば虎児こじを得ずっていう東洋の格言があらあ、俺たちはキッドの財宝ざいほうを得るために恐竜の穴に入ったんだ。大冒険なんだぜ、命がけの探検なんだぜ。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小平太はまず虎口ここうのがれたような気がした。が、ここでひとつ落着いたところを見せておこうと
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
みどりのためには昨夜の泥棒は、虎口ここうを救うてくれた恩人であります。この与八があの時、泥棒! と叫んでくれたればこそ、おかげで恥かしい目をのがれたものです。
女郎屋の朝の居残りに遊女おんなどもの顔をあたって、虎口ここうのがれた床屋がある。——それから見れば、旅籠屋や、温泉宿で、上手な仕立は重宝ちょうほうで、六の名はしち同然、融通ゆうずうは利き過ぎる。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ささやき合ったので、私はモウ一度振り返ってその横顔を記憶に止めると、何かしらヒヤリとしながら、大急ぎで人混みに紛れ込んだ。ちょっと虎口ここうを逃れたような気持ちになって……。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
帰つた時、まあ今日けふ虎口ここうのがれて難有ありがたかつたと感謝したぎり、放りして仕舞つた。ちゝからはまだなんとも催促されないが、此二三日は又青山へ呼びされさうな気がしてならなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いつも大したこともなくモスケー・ストロムの虎口ここうを通りぬけていました。
気も逆上のぼせてうろ/\して居ります処を勘太につけられ、ヤッと虎口ここうをのがれたと思ってるに停車場ステーションへつくと直ぐ、こゝまでも執念ぶかくけて参り、逃げようと云ったッて逃さぬやらぬと
実はそれがために、かえって虎口ここうにはいるような事ができたのである。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
けれどももうそこに着いた以上は虎口ここうに入ったようなものですから逃げ出そうたって到底駄目だ。殺されるようなら安心してその巡礼の刀のさびになってしまうより外はないと決心して泊りました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
お秋は虎口ここうをのがれでもしたやうに、店の方へ引返します。
お葉は虎ヶ窟から虎口ここうを逃れた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「むむ。ここの一難は去ったとしても、さきゆき、またも虎口ここうに見舞われたら何もなるまい。一存でよいようにしておけ。申しつけたぞ」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今一度君にまみえ奉らんと、虎口ここうの難をのがれ、漸くこれまで来りしなり、おもひもよらず隣家にて其方のねものがたりを聞くうれしさ、これひとへに仏神のお引合せならん
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
虎口ここうのがれたる顏色かほつきの、うだ、北八きたはち恐入おそれいつたか。餘計よけいくちくもんぢやないよ。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
凡そ英雄豪傑の伝記を読むと、何となく天がその人の運命に特別な冥護めいごを垂れ、彼はそのお蔭で、しば/\常人の企て及ばざる危地を蹈みながら無事に虎口ここうを脱出するかの如くに見える。
帰った時、まあ今日も虎口ここうを逃れて難有ありがたかったと感謝したぎり、放り出してしまった。父からはまだ何とも催促されないが、この二三日は又青山へ呼び出されそうな気がしてならなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
虎口ここうはまだ脱したとはいえないぞ。ゆるむな、居眠るな、かつを考えるな。——ただ生きよう生きようという大慾を出せ」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何にしても庄造は、自分がゐたら中々福子の怒り方が此のくらゐでは済むまいと思ふと、危く虎口ここうを逃れた気がして、スハといへば戸外おもてへ飛び出せるやうに、身構へをしながら立つてゐると
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もう宮門内だ、もう大丈夫と、菊王も車上の俊基も、ほっと虎口ここうをのがれた思いがしていたにちがいない。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何にしても庄造は、自分がゐたら中々福子の怒り方が此のくらゐでは済むまいと思ふと、あやう虎口ここうを逃れた気がして、スハといへば戸外おもてへ飛び出せるやうに、身構へをしながら立つてゐると
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
扈従こじゅうの武者に、捕まり損ね、覚然は、一生に一度の生命びろいをして、虎口ここうをのがれたというのである。
何にしても庄造は、自分がいたら中々福子の怒り方がこのくらいでは済むまいと思うと、危く虎口ここうを逃れた気がして、スワといえば戸外おもてへ飛び出せるように、身構えをしながら立っていると
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
全山ぜんざん城地じょうちと見なし、十七ちょう外郭そとぐるわとし、龍眼りゅうがんの地に本丸ほんまるをきずき、虎口ここうに八門、懸崖けんがい雁木坂がんぎざか、五ぎょうはしら樹林じゅりんにてつつみ、城望じょうぼうのやぐらは黒渋くろしぶにてりかくし
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今夜虎口ここうはひとまずのがれ得たにしろ、お綱がお三輪と乙吉に会ってから、一そう切実になった悪と善心の闘い、恋と環境の添わぬなやみは、かれの行くところまた走るところへ
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あぶない虎口ここう
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
虎口ここう
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)