荒削あらけず)” の例文
生憎あいにくそんなものは持合せていないので、まあ我慢することにして——足袋たび穿き、手袋をはめ——天井裏は、皆荒削あらけずりの木材ばかりで
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
小初は電球をひねって外出の支度をした。箪笥たんすから着物を出して、荒削あらけずりの槙柱まきばしらなわくくりつけたロココ式の半姿見へ小初は向った。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いずれのカクラサマも木の半身像にてなたの荒削あらけずりの無恰好ぶかっこうなるものなり。されど人の顔なりということだけはかるなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
荒削あらけずりの巨大な柱がすすけた下に、大寺院の庫裡くりで見るような大きな土竈へっついがある、三世紀以前の竜吐水りゅうどすいがある、漬物の桶みたようなのがいくつもころがっている。
ムーソルグスキーの荒削あらけずりな作品に手を入れて、名作を我らにのこしてくれたのはもう一つの手柄てがらである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
荒削あらけずりの板を切り組んだ風呂で、今日は特に女客おんなきゃくの為め、天幕てんまくのきれを屏風びょうぶがわりにれてある。好い気もちになって上ると、秋の日は暮れた。天幕にはつりランプがつく。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お前達貴族と自称する、ひまのある人間のもてあそびものだ。そんな物は多くの人間にとって有害であるとも有益じゃねえ。……本当の芸術というものはな、荒削あらけずりの大きな力なのだ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
従って、過程の荒削あらけずりはまぬがれない。その急速の過程にはまた当然始末が残るというわけにもなる。——いずれにせよ、まだ正直、中国までへは手が届かん。何といっても、足もとが先だ。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくし自身じしんやま修行場しゅぎょうばうつるまでは、矢張やは岩屋いわやずまいをいたしましたが、しかし、ここはずっとおおがかりに出来でき岩屋いわやで、両側りょうがわ天井てんじょうもものすごいほどギザギザした荒削あらけずりのいわになってました。
周囲は、荒削あらけずりの土石の壁。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
常陸はずんと風もあらい、地もあらい、人も荒削あらけずりじゃが、剛毅ごうきというやつが骨太ほねぶとに坐っておる。こう二つのものの中庸ちゅうようを行って、よく飽和ほうわしているのが大石大夫の人がらじゃと、わしは思うが
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、もちろんたたみいてなく、ただ荒削あらけずりの厚板張あついたばりになってりました。
霜枯れた草原に、野生やせい松葉独活アスパラガスが紅玉をちりばめて居る。不図白木の鳥居とりいが眼についた。見れば、子供がかかえて行ってしまいそうな小さな荒削あらけずりのほこらが枯草の中に立って居る。誰が何時いつ来て建てたのか。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)