あし)” の例文
お婆さんはまずブラシで、メリーの頭から、頸、肩、背、腰、あしという順に丹念にマッサージをして、それから金櫛かなぐしで丁寧にいた。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
「彫れますかな? 本式の親分になるしるしに。……そしたら、僕も、やっぱり、龍を彫ります。そして、百合の花をあしに握らせますよ」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
みごとなつのたくましいからだ、雪をかぶっているためか、あごの白い斑毛まだらげが汚れた灰色に見える。動作は重おもしく、あしのはこびも鈍いようだ。
あしの爪アナグマに比し短し。また曰く、アナグマ一名ムジナ、いたち科。狸に似たる黒色のものあり、地方によりてはムジナと称し狸と混同す。
狸とムジナ (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ブルダンは吃驚びっくりして払いのけた。けれどもこの怪物はしつこく舞い戻って来ては、その有毒なあしを踏んばって一生懸命に彼の唇にすがりついた。
青蠅 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
裂かれた裾の下にはっきりと意識される彼女のあしの曲線を、溶けてしまうように固く腕に抱きしめながら、彼は夢中で人混みの中へ飛び下りた。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
たいていは馬のあしが折れるかと思うくらい、重い荷を積んでいるのだが、傾斜があるゆえ、馬にはこの橋が鬼門きもんなのだ。
馬地獄 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
紙の上へピンで留められた巨大な昆虫のあしのように、虚空を掻きむしって、醜怪の限りを尽した線を描いて居ります。
死の舞踏 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
この虻の大きな図体の上に馬乗りになり、あしでも首でも尻でも身体全体で抱へ込むやうにし、攻撃を加へながらまりのやうになつて落下して来たのである。
ジガ蜂 (新字旧仮名) / 島木健作(著)
店座敷の障子には、裏の竹林の方からでも飛んで来たかと思われるようなきりぎりすがいて、細長いあしを伸ばしながら静かに障子の骨の上をはっている。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
無残にも軟らかなあしを引きちぎったり、あるいは苔の上を、滑べるようにして岩礁を乗り越え、噴き水を避ける時には、たぶん銀のあぎとや、貝殻のような耳が
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
しかしよく見ると、その怪物は大きなはねがあった。鏡のような眼があった。鉄骨のようなあしがあって、それに兵士の剣のような鋭い毛がところきらわず生えていた。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
針の痕は次第々々に巨大な女郎蜘蛛じょろうぐも形象かたちそなえ始めて、再び夜がしら/\と白みめた時分には、この不思議な魔性の動物は、八本のあしを伸ばしつゝ、背一面にわだかまった。
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それは、その変態に必要な材料を集めるのだ——その材料といふのは、翅、触角、あし、になるので、それはみんな幼虫にはないが、昆虫は持つてゐなければならないのだ。
すると奇妙なものが、庭のかきの木につないであつた。初め栄蔵は、犬だと思つて何気なく通りすぎようとした。しかしそれは犬ではなかつた。犬にしては、あしが細く長すぎた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
柔らかなあしでも手でも、赤くふくれたところをナースチャにつきつけて云うのであった。
赤い貨車 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
やがてだんだん贅沢になって彼の食物をおもちゃにしだし、粒の内側だけを食べる。彼の一本のあしで薪の上に釣合いを取られていた穂は彼の不注意な支えを抜けて地面に落ちた。
だからみんな、眼を据えて、牛のあしの筋肉の微動を注視している。
あしを一本み切って快感がむさぼれれば、虎狼は直ぐやります。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ればあしちゞ
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
(いつか、勝則が、彫青いれずみを入れるなら、やっぱり龍を彫って、そのあしに百合の花を握らせる、なんて、いうとったことがあるが、……)
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
と云うのは、いかなる魔の所業しわざであろうか、戸板の上の骸骨には、あし首がくくり合わされていて、それが人魚をかたどる、あの図紋のように感じられたからである。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
第一号という檻の中にバタバタ飛翔しているからすぐらいの大きさの黒い鳥——と思ったのが目の誤りで、よくよく見ると身体の形やはねあしの様子から知れるとおり、それは黒蠅くろばいだった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
みごとな枝角と、まだら毛のある大きな躰躯たいくと、そしてほっそりと敏捷びんしょうそうなあしとを。
若き日の摂津守 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
此前見た時の神妙な姿と違つて、思ひきり紅白粉の薄化粧をした上、輪袈裟わげさどころか燃え立つやうな長襦袢ながじゆばん一枚になつて、胸もあしも淺間しいまでに取亂したまゝ、その左の乳のあたりへ
「さよう、まったく神秘的な事件です」と法水は伸ばしたあしを縮めて、片肱を卓上に置いた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この前見たときの神妙な姿と違って、思いきり紅白粉の薄化粧をした上、輪袈裟わげさどころか燃え立つような長襦袢ながじゅばん一枚になって、胸もあしも浅間しいまでに取乱したまま、その左の乳のあたりへ
「そのあしには、なにをつかむ?」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
麻痺が薄らいでいたと云う証拠には、腕が内側にねじれて指先がかぎ形になっている。また、そう云う時には、あしを曲げるのに困難を覚えるので、あの跫音をそれと想像させた環状歩行が起って来るのだ。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)