はず)” の例文
まるで寺小屋の芝居に出て来るよだれくりのような、うすぎたない、見すぼらしい、人前に出るさえはずかしい姿になってしまって居る。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
馬鹿らしい。なんだって己はこの人達の跡にくっついて歩いているのだろう。なぜはずかしいなんぞという気を持っているのだろう。
(新字新仮名) / ウィルヘルム・シュミットボン(著)
あるい不甲斐ふがいない意久地が無いと思いはしなかッたか……仮令よしお勢は何とも思わぬにしろ、文三はお勢の手前面目ない、はずかしい……
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「何」章一ははずかしめられてかっとなった。彼はいきなり細君さいくんに迫って妊娠のために醜くなっているそのきいろな顔をなぐりつけた。「ばか野郎」
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
どうぞ、篠田さん、御赦おゆるし下ださいまし——警視庁から愚父ちゝへ内密の報知がありましたのを、はからず耳にしたので御座います、おはずしいことで御座いますが
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
壮士坊主の課業 これらはまあ下等な僧侶としてなすにはずかしからぬわざであるけれども、壮士坊主と言われるだけ奇態な事を課業として居る奴があります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
三尊さんぞん四天王十二童子十六羅漢らかんさては五百羅漢、までを胸中におさめてなた小刀こがたなに彫り浮かべる腕前に、運慶うんけいらぬひと讃歎さんだんすれども鳥仏師とりぶっし知る身の心はずかしく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
とうてい公然けんたいに申されんはずかしかことですばッてん、今迄は誰にも申したことがござりませんでしたけンが、かくなる上は何事も明瞭ささくりと申上げまッしょう。……今から八年前のことでございました。
相手が日本の女だったらこんな歯の浮くような言葉が口から出る筈はないと思うと、要は我ながら馬鹿々々しくもありはずかしくもあった。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
アアそれ程までにわたくしを……思ッて下さるとは知らずして、貴嬢あなたに向ッて匿立かくしだてをしたのが今更はずかしい、アア耻かしい。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「でも」と、云った夫人は急に思いついたことがあるようにさもはずかしそうな顔をして、「お父さま、どうぞ、床をあげることは、ちょっとの間お待ちくださいませ」
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その心のごときも我は華族であるからはずかしき行いをしてはならんと深く自ら戒めて居る者が多い。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ただ模品うつしをこしらえて御遣わしなされまし、と云ったほどにも拘らず、天下に一ツの鐙故他に知る者は有るまいけれど、模品を遣わすなどとはが心がはずかしい、と云って真物を与えた。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
人形の製作なら、ええとこのお嬢さんや奥さんの余技として、誰に聞かれたかてはずかしいことあれしませんけど、洋裁は止めてほしいんですねん。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さざい壺々口つぼつぼぐち莞然にっこと含んだ微笑を、細根大根に白魚しらうおを五本並べたような手が持ていた団扇で隠蔽かくして、はずかしそうなしこなし。文三の眼は俄に光り出す。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それは誰しもはずかしければ其様そのようにまぎらす者なれど、何もまぎらすにも及ばず、じじが身に覚あってチャンと心得てあなたの思わく図星の外れぬ様致せばおとなしくまちなされと何やら独呑込ひとりのみこみの様子
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
此処ここに書くのもはずかしい事の限りですが、———二階へ行って、彼女の古着を引っ張り出してそれを何枚も背中に載せ、彼女の足袋を両手にめて
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これにはわたくし、ほとほと感心してしまいまして、自分なんぞが監督したり心配したりするなんて烏滸おこがましいことだと、此方がはずかしくなってしまいました
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ああ、勉強おし、勉強おし、もう直ぐピアノも買って上げるから。そうして西洋人の前へ出てもはずかしくないようなレディーにおなり、お前ならきっとなれるから」
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
... かえりみず文さし上候あげそうろうこなた心少しは御汲分おんくみわけ………」とか「ひとかたならぬ御事のみ仰下おおせくだされなんぼうかうれしくぞんじ色々はずかしき身の上までもおはなし申上げ………」
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
到底左大臣を満足させる程の款待かんたいをなし得ないのを、はずかしくも歯痒はがゆくも感ずる念が一杯であった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
後にいのくだりになって、「げにはずかしや我ながら、昔忘れぬ心とて、………今三吉野みよしのの河の名の、菜摘の女と思うなよ」などとあるから、菜摘の地が静に由縁ゆかりのあることは
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
芝居が見られないで泣くなどと云う子供らしさを内心はずかしく思いながら、最初のうちは一生懸命にこらえていて、しまいに怺えきれなくなって泣いたのであると云うことが
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大勢の前ではずかしくもあり、ごたごたしている最中なので、それは云わずにしまいました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
今は子供だましの人形などをこしらえて喜んでいられる時代ではあるまい、女性といえどももっと実生活につながりのある仕事をしなければはずかしい時ではないか、と云うのであったが、幸子は
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
今迄は雪子と云うものを、何処どこへ出してもはずかしくない妹として人に見せびらかす気味合いであったのに、昨日は沢崎の眼が雪子を見るたびに、此方は始終ビクビクしていたではないか。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「………うち、こんなとこにいること、櫛田さんに知れたらはずかしいわ。………」
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
はずかしながらその風景を細叙さいじょする資格がない。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)