ほっ)” の例文
どう見ても千浪のほっそりしたかたちに間違いないので、時やその他の不合理を疑う余裕もなく、すぐ身をひるがえして後を追って行った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やや小造りで、ほっそりして、総体に青ずんだ感じのするのも、病的というよりは、反ってアブノーマルな魅力を感じさせるのです。
と言って、立ち上って、押入れから、南部柄の丹前を取り出すと、ふうわりと、ほっそりした肩先にかけてやって、火鉢に炭をつぎ足したが
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
消えかかってる炎は、いつにない内心の興奮のためにあかくなってるアルノー夫人のほっそりした顔を、ひらひらと燃えたつごとに照らしていた。
わりにほっそりとして見える胸部から、ちぎって投げ出されたような円っこい両腕が、手応えのある重みを以てだらりと炬燵の上に置かれていた。
二つの途 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そこで私は、三本足というて、襟足を三筋塗り残して、襟足をほっそりみせる花嫁のお化粧をいたしてやりました。
女のようにきゃしゃなほっそりしたお人だったということと、これから直ぐ汽車に乗るのだと云って、大きな荷物を持っていられたことだけは分りました。
情鬼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
小柄でいながらしっかりした肉付の背中を持っていて、稍々やや左肩をそびやかし、ほっそりしたくびから顔をうつ向き加減に前へ少し乗り出させながら、とっとと歩いて行く。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
お瀧は其れとは打って変って成程眉目みめ形は美しゅうございますが、せい恰好から襟元えりもとまでお尻の詰ったほっそり姿、一目見ても気味の悪くなるような婦人でございます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ぼうとなる大願発起痴話熱燗あつかんに骨も肉もただれたる俊雄は相手待つ間歌川の二階からふと瞰下みおろした隣の桟橋さんばしに歳十八ばかりのほっそりとしたるが矢飛白やがすりの袖夕風に吹きなびかすを
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
そこは街裏の何処か艶めいたすだれや肘かけやほっそりした煙草盆だのが置かれてある室であった。つめたい紫檀したんのちゃぶだい、襖のかげから見える長いよく磨かれた廊下などがみえた。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
人に指点す指の、ほっそりと爪先つまさきに肉を落すとき、明かなる感じは次第に爪先に集まって焼点しょうてん構成かたちづくる。藤尾ふじおの指は爪先のべにを抜け出でて縫針のがれるに終る。見るものの眼は一度に痛い。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
聖因寺せいいんじの前へ行ったところで、中から若い眼のさめるような女が出てきた。十七八に見えるあおい着物を着た手足のほっそりした女で、一人の老婆が後からきていた。その女の眼はちらと彭の顔へきた。
荷花公主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ほっそりした足の指頭ゆびさきまで真紅まっかであった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そのきとおるほど白い顔、そのほっそりした襟脚えりあしに気がついて、お品は、あ、うっかり悪いことをいったと心の奥で後悔する。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頭の大きなわりにほっそりとした体躯、凸額おでこの中から睥めるように物を見る眼、小鼻の小さな高い鼻、細い腕、長い指、それらが変に不気味だった。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
一人は背の高い、がっちりした体格の鳥打帽の男、もう一人は小柄でほっそりとした色白の細面だった。
深夜の客 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
外で出会うといつも彼女は、食料品を運んでいたり、小さい妹を負ったりしていた。あるいはまた、ほっそりして虚弱で片目である七歳の弟の、手を引いてることもあった。
此方こっちが御無礼で、帰って見ると髷が殺げて髪を結うことが出来ねえんだが、旦那エ実にわっちア驚きやした、あなたは華奢きゃしゃほっそりした小さい体躯からだだから、実はお案じ申したんですが
斯う話すうちにも、ほっそりした身体からだは痛々しく顫えて居ります。
踊る美人像 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
闇太郎のほっそりした手先は、つと、町家のひさしにかかる。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
源の手端てさきに少女のほっそりとした手が触れた。
緑衣人伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
桃色のドレスの肩から流れ出ている血汐は、ほっそりした白蝋のような腕を伝わり、赤い一筋の線を描きながら、白いゴム・マットの上に滴り落ちて、窪んだ処へ溜っている。
黒猫十三 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
気まぐれらしいあごすみがややふくれてる利発な逸楽的な口、パルメジアニノ式の純潔な小半獣神みたいな微笑、それから長いほっそりした首、ほどよく痩せた身体をもっていた。