紛失ふんじつ)” の例文
盜みし當人のいでざる中は文右衞門の片口かたくちのみにてゆるわけには成り難く尤も百兩の紛失ふんじつは言掛りなしたる久兵衞こそあやしき者なれととく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ちやうど耶蘇の死骸が墓のなかで紛失ふんじつしたやうなもので、不思議は四福音書にあるやうに、職人の掌面にもあるものなのだ。
紛失ふんじつするなんてえ馬鹿げたことはないはずだが、聞きなせえ、今日だ、十九日というと不思議に一挺ずつくなります。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と飯島は孝助の忠義のこゝろざしはかねて見抜いてあるから、孝助が盗み取るようなことはないと知っている故、金子は全く紛失ふんじつしたなれども、別に百両を封金ふうきんこしらえ
何時いつにか前の幕で紅雀の紛失ふんじつして居たのは隣人の盗んだのである事を主人みづかのちの幕で静かに問ひ詰め、突然その隣人の喉に蛇の如く弁髪を巻き附けて締めなが
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
陛下を捜そう為ではなく陛下と一緒に紛失ふんじつした玉璽を捜そうためであると、斯う云うことでございます……それで私は謹んで馬袁長老にまで申上げますが、ご安心遊ばせ
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこでさいつらまえて、紛失ふんじつした物を手帳に書き付けている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
申位なら去年紛失ふんじつの節訴へていたゞきますが私しは奉公の身の上なれば金は入らねどたゞ老母らうぼの病を治し度一心にて出ましたに名前を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何を申すも田舎者で、預り物が紛失ふんじつ致して少々逆上とりのぼせて居る様にも見受けますれば、お荷物に手を附けました段は重々恐れ入りますが何うか何も心得ません者と思召おぼしめ只管ひたすら御勘弁を
度度たびたび傘を紛失ふんじつして買ふのもしやくだと云つて居る内藤は僕の傘の中へはひつて歩いた。自動車にでも乗らうと云つたが、謙遜なヌエは近い所だと云つて聞かなかつた。ラスパイユの通りへ出た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
並べてうらなひ此盜賊は男で御座ると云ながら歸去かへりさりけるにぞ九助は種々と工夫し其儘四里廿一丁を一いきに飛が如く水田屋へ到り息を繼々つぎ/\紛失ふんじつの話を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
源「殿様は荒い言葉もお掛なすった事もなかったが大枚だいまいの百両の金が紛失ふんじつしたので、金ずくだから御尤ごもっともの事だ、お隣の宮野邊の御次男様にお頼み申し、お詫言わびごとを願っていたゞけ」
ナポリ、ポンペイ等の記事も同様である。それ等の郵便を予自身に郵便局へおもむいてさし立てなかつたのが過失であつた。人気にんきるいナポリの宿の下部ギヤルソンに托しために故意に紛失ふんじつされたのであつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
國「おとぼけでないよ、百両のお金が此の胴巻ぐるみ紛失ふんじつしたから、御神鬮おみくじうらないのと心配をしているのです、是がくなっては何うも私が殿様に済まないからお金を返しておくれよ」
それを彼是かれこれ荒立って見ると事柄が面倒になるから、わたしも許すから、しかしお前も預り物を紛失ふんじつしてさぞ心配であろうが、幸い此の紙入に二十両のこって有るから、お前にこれを進上するから
ことには春部梅三郎の父が御舎弟様から拝領いたしました小柄こづか紛失ふんじつ致しました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
家主いえぬしも驚きまして引取りに参り、御検視お立会たちあいになると、これは手のすぐれてる者が斬ったのであるゆえ、物取りではあるまい意趣斬りだろうという。なれども貞宗の刀が紛失ふんじつしている。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これ如何いかに其の方の荷物が紛失ふんじつしたとてみだりに他人たにんを賊といっては済まんぞ、いやしくも武士ぶしたる者が他人ひとの荷物を持っておのれの物とし賊なぞを働く様なる者と思うか、手前は拙者を賊に落すか
粟田口國綱あわだぐちくにつなと云う名剣が此の金森家にございます。これはその北條時政ほうじょうときまさ守刀まもりがたな鬼丸おにまると申します名刀がございました、これと同作でございまする。かの國綱の刀の紛失ふんじつから末が敵討かたきうちになりまする。
わしは殿様から預り中に、御家おいえ御伝来のお刀を紛失ふんじつ致し、それがために忰は少し心当りがあって美濃へまいった、尤も手掛りが無ければ、何時帰るか知れんと云って出たが、今に音信たよりは無いけれども
粟田口國綱の刀紛失ふんじつ致しましてから重三郎の行方知れず、主人も心配致して居りまする処へ稻垣小左衞門が参りましたが、重三郎の罪を身に引受け、別に厳しゅう咎めもなく屋敷へ帰られました事で