空壜あきびん)” の例文
媼さんはかぶりつた。智慧の持合せの少かつたのを、六十年来使ひ減らして来たので、頭の中では空壜あきびんるやうな音がした。
(略)店は二間間口にけんまぐちの二階造り、のきには御神燈ごじんとうさげてしお景気よく、空壜あきびんか何か知らず銘酒めいしゅあまた棚の上にならべて帳場ちょうばめきたる処も見ゆ。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そこには、出来たばかりの人造人間が、ぴーんと硬直こうちょくしたまま、ビールの空壜あきびんを積んだように並べられてあった。実に、世にもめずらしい光景であった。
異国に対する無知が、およそいかなる程度のものであったかは、黒船から流れ着いた空壜あきびんの話にも残っている。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すると勝手の方で婆さんの声がした。それから牛乳配達が空壜あきびんを鳴らして急ぎ足に出て行つた。うちのうちが静かなので、鋭どい代助の聴神経には善くこたへた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
午後の二時ごろには、彼らのテーブルには空壜あきびんがいっぱい並んでいた。二本の蝋燭ろうそくが、一本は全部緑色の銅の燭台に、一本は欠けた壜の鶴首つるくびにささっていた。
縫い物をしていると、川のほうで妙な音がする、ごぼごぼという、空壜あきびんに水の入るような音と、ひゅう、と息を吸うような音が、川上のほうから、しだいに下って来る。
葡萄酒ぶどうしゅや、麦酒の空壜あきびんを海に捨てれば、毒物を流して日本人を鏖殺おうさつするの計画と怖れ、釣床に疲れている水兵を見て異人は惨酷だ、悪事を為したものには相違なかろうが
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
行儀よく並んだ空壜あきびんに、何かの液体を注ぎこみでもするように、教えこまれるあれこれのすべてが、少女たちの若々しい本心に、肯かれることばかりではなかったことは確です。
美しく豊な生活へ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
店は二けん間口の二階作り、軒には御神燈さげてじほ景気よく、空壜あきびんか何か知らず、銘酒あまた棚の上にならべて帳場めきたる処もみゆ、勝手元には七輪をあほぐ音折々に騒がしく
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ブリキの石油缶や空壜あきびんや板きれが、岩礁の間に漂っていた。難破船のいたましいかたみの品なのであろう。ことによると、九竜丸の残骸ざんがいもその中にまじっているのかも知れなかった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
この日はことに割りこみ騒ぎで殺気立ち、その列中の若者の一人は柄のよくない与太者と見えたが、喇叭らつぱのみにのみ終つたビールの空壜あきびんの口をバンとつかいだかと思ふと相手の首筋にグサと突き刺し
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
今まで空壜あきびんだらう位に思つてゐたがよく見ると
鳥料理:A Parody (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
義母おつかさんとき最早もうコツプも空壜あきびんい。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
中野氏はかう腹をきめて自分の居るへやのなかを見廻した。粗末な椅子と卓子テーブル麦酒ビール空壜あきびんと会話辞書と——そこらに見えるものは何一つ耳を持つてはゐなかつた。
みせは二けん間口まぐちの二かいづくり、のきには御神燈ごしんとうさげてじほ景氣けいきよく、空壜あきびんなにらず、銘酒めいしゆあまたたなうへにならべて帳塲ちようばめきたるところもみゆ、勝手元かつてもとには七りんあほおと折々をり/\さわがしく
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「牛乳、ビール、サイダーの空壜あきびんを集めてください」
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今まで空壜あきびんだろう位に思っていたがよく見ると
鳥料理 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
羸弱ひよわな役人の腹は薄荷ペパミント酒の空壜あきびんのやうな恰好になつた。