称名しょうみょう)” の例文
旧字:稱名
実に仏も心配なされて西方極楽世界阿弥陀仏を念じ、称名しょうみょうして感想をこらせば、臨終の時に必ず浄土へ往生すと説給ときたまえり、南無阿弥陀仏/\
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それが四百米も深く原を穿鑿せんさくして流れる称名しょうみょう川の為めに切り離されて、大日岳に附属した形になり、さてこそ大日平と命名された次第なのです。
日本アルプスの五仙境 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
一念に称名しょうみょうしているので、自分だけが、この広い御堂のうちで、空虚を作っているように思われて、何だか、取り残されたような心地であった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ばばとなえる。……これが——「姫松殿ひめまつどのがえ。」と耳を貫く。……称名しょうみょうの中から、じりじりと脂肪あぶらの煮えるひびきがして、なまぐさいのが、むらむらと来た。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あんまり言い慣れない称名しょうみょうが、ひとりでに飛び出すと、七兵衛は、仏兵助の前へ正面に向き直って、拝礼するような姿勢をとって首を下げたのは
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
焼香供華くげ礼拝らいはい誦経じゅきょう、心しずかに称名しょうみょうしたろう真面目さ、おとなしさは、何という人柄の善いことだろう。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
知的なそんな念仏は、決して念仏に醇化じゅんかしたものとは申されません。ただ「南無阿弥陀仏」でよく、意味などにとらわれるなら、まだ本当の称名しょうみょうではありますまい。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
こゝにこの因果を観じて如是にょぜ本末の理趣ことわり究竟くきょうし、根元こんげんを断証して菩提心に転じ、一宇の伽藍がらんを起して仏智慧ぶつちえ荘儼しょうごんたてまつり、一念称名しょうみょう人天咸供敬にんてんげんくぎょうの浄道場となせる事あり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今日は彼岸にや本堂に人数多あまた集りて和尚の称名しょうみょうの声いつもよりは高らかなるなど寺の内も今日は何となく賑やかなり。線香と花るゝ事しきりに小僧幾度かほうき引きずって墓場を出つ入りつ。
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
応永のころ一条戻橋もどりばしに立って迅烈じんれつ折伏しゃくぶくを事とせられたあの日親という御僧——、義教よしのり公のいかりにふれて、舌を切られ火鍋ひなべかぶらされながらつい称名しょうみょう念仏を口にせなんだあの無双の悪比丘あくびく
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
明日は食わるるに相違ない今宵こよい限りの命と懸命に称名しょうみょう誦経すると、暁近く羌人が引き出しに来るところへ虎おどり出で、諸羌人をはしらし達と小児と免れ得た、これだから信心せにゃならぬとある。
そして、合掌して、称名しょうみょうした。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
食し、常に称名しょうみょうおこたる事なし
天慶二年の夏中は、夜毎よごと夜毎、空也念仏の称名しょうみょうの声と、夢中でたたく鉦の音と、妖しいまでに踊りける人影に、都の辻は、異様な夜景をえがいていた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と口のうちにて称名しょうみょうを唱え、枕橋の欄干へ手をかけて、ドブンと身をおどらして飛込みにかゝると、うしろに手拭を鼻被はなっかぶりにした男が立って居りましたが、この様子を見るより早くお雪を抱止め
「わしは聖教を見ない日とてはない。木曾きそ冠者かじゃが都へ乱入した時だけ只一日聖教を見なかった」それ程の法然も後には念仏の暇を惜んで称名しょうみょうの外には何事もしなかったということである。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
応永のころ一条戻橋もどりばしに立つて迅烈じんれつ折伏しゃくぶくを事とせられたあの日親といふ御僧——、義教よしのり公のいかりにふれて、舌を切られ火鍋ひなべかぶらされながらつい称名しょうみょう念仏を口にせなんだあの無双の悪比丘あくびく
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
一夏称名しょうみょう、平湯、白水と云うような私が名もろくに知らなかった瀑を探り、糸魚川街道を松本に抜け、立山、後立山両山脈の高峰を目睫の間に眺めて、夏も残雪の非常に多い山のあることを知り
登山談義 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
彼は、どんな朝でも、欠いたことのない神前の朝拝と、仏間の称名しょうみょうとを、この朝に限って、怠ってしまった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——昨夜、この法然が、称名しょうみょうしておる折に、近くのへやで、せきばらいをしたのはおもとでござったの」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武蔵は、こうした時には、いつもちょっと瞑目めいもくして、心のうちで称名しょうみょうを唱えるのが常であった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝に夕に——という程ではないが、時折、右門はここへ来て、一片の称名しょうみょうを念じていた。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まず、念仏を先に唱え候え。——自分の有智うち、無智、悪行、善行、職業、骨肉、すべての碍障げしょうはばめられず、ひたすら、仏光に向って、一念十念、称名しょうみょうあること浄土の一歩にて候ぞや」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとたびは光秀の逆を道義に照らしてののしった者も、いまは口の裡に称名しょうみょうを念じて帰った。れに腐屍ふしの下へ花を投げてゆく者もあった。警固の武士もそれを見てとがめるようなことはしなかった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、聞き惚れていたら、突然、そのオーケストラはふつうの称名しょうみょうの調子に変ってしまった。外に佇んでいたぼくらに気づき、僧はその法楽三昧の遊戯を止めてしまったらしい。惜しいことである。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)