石工いしく)” の例文
カチ、カチ、カチ! たえまのない石工いしくのみのひびきが、炎天にもめげず、お城のほうから聞えてくる。町人の怠惰たいだむちうつようだ。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今でもこの石屋根を作った石工いしくが残っているが、この頃は他の瓦類に比して高価なのであらたに試みる者が絶えた。しかし三十年位前までは続けられた。
野州の石屋根 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
牧田氏の知らせによって四里の道を越えて故青年の所謂いわゆる伊手市いでいちどん……水の尾村の石工いしく、吉永伊手市氏と、肥後屋の亭主、半田藤五郎とうごろう氏が来てくれる。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
おっとというのは石工いしくであったが、このへんのたいていの労働者ろうどうしゃと同様パリへ仕事に行っていて、わたしが物心ものごころついてこのかた、つい一度も帰って来たことはなかった。
また一つには石工いしくがなく、石をり出す者が村におらず、石塔の代りにただ土の塚を築いていたからで、起りは決してそのように新しいものではなかったようである。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
(二)石切場内には大小無数の石片石塊と、石工いしくの作業の跡、及、街道より散入したるわら、紙、草鞋わらじ、蹄鉄片、その他凡百の塵芥じんかい類似の物のほか、特に注意すべき遺物を認めず。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
儒者風の者、鷹匠風の者、卜笙者風ぼくぜいしゃふうの者、僧体の者、神主風の者、鍛冶風かじふうの者、瓦工がこう、陶工、人相見、石工いしく仏工ぶつく、医師風の者、しかしいずれも一様に、天狗の面をかぶっている。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
石工いしくの坐ったと思われるところのむしろの上へ米友は坐り込んで、背中の風呂敷から、お角の家でこしらえてもらった竹の皮包の胡麻ごまのついた握飯むすびを取り出して、眼を円くしていましたが
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
塗師ぬしかざり職人、磨師みがきし石工いしくなども二十五人一組の定めであった。むろん一同は山へ上がったが最後、かしらだったものは町小屋、諸職人は下小屋したこやに寝とまりして、竣工しゅんこうまで下山を許さないのです。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
えんの方へ廻れと云うたら、障子をあけてずンずン入って来たから、縁から突落して馬鹿と叱った。もと谷中村やなかむらの者で、父は今深川ふかがわ石工いしく、自身はボール箱造って、向うまかないつき六円とるそうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
石工いしくの眼赤きを見ればうら侘し櫟林の秋の落日らくじつ
短歌 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
そのほか、鍛冶かじ石工いしく、左官、錺師かざりし経師きょうじなどにいたるまで、天下の工人の代表的な親方はみな腕のきそいどころと一門をすぐって来ていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ああ、五、六年まえパリで災難さいなんに会った石工いしく家内かないだな。それも知っている。調べさせよう」
山は既に春深く樹々きぎは緑を競う。こんな長い美しい峠も多くはあるまい。石器の長水は昨夜からの夢である。邑内ゆうないで車を下り郡守林明珣氏に会う。石工いしくの村は邑外二十町ばかりの先昌里にあった。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
土工や石工いしくなどになぶり殺しになったのだとはご存じないし、また、左様なことは、外聞がいぶんがわるくて、身寄りの者や世間へも披露いたしにくい。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
石工いしくでも土工でもない、四十がらみの色の黒いさむらいで、炎暑のために、もろ肌をぬぎ、白いさらしの襦袢も、汗と土でうす黒くよごしていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その年の鎌倉は、石曳いしびうた手斧ちょうなの音に暮れ、初春も手斧のひびきや石工いしくの謡から明けめた。——鎌倉へ、鎌倉へ。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
土工や石工いしくが集まってくる。大規模な土木が興ろうとするものらしい。たちまち、附近の山がけずり取られて、赤土の肌が南向きにだんだんに拡がってゆく。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこにも、多くの石工いしくが、外廓そとぐるわの石垣を築いていた。搦手からめて橋梁きょうりょうや、濠をさらう工事にもかかっている。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
江戸城の改築をしているので、石工いしく、左官、大工の手伝いなどならその日からでも、仕事があったが、城普請しろぶしんの労働の辛い味は、伏見城でもさんざんめているので
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
口々にいって、石工いしくや土工や工事奉行の配下は、みな自分の敵でもいるように駈け集まって行く。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何事もなかったように、石曳きは石を曳き、土工は土をかつぎ、石工いしくのみで石を割っている。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それ以外は、びょうとした草原と、近頃、埋めたばかりの広い土だった。もっとも其処此処と、ポチポチあかりの影は見えるが、近づいて見ると、それは皆、木挽こびき石工いしくの寝小屋だった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秀吉のすがたが見えても、ここの奉行や督励とくれいしている侍たちは、彼をふり返る者もない。また、何千の木工、土工、左官、石工いしく、あらゆる工匠たくみや人夫たちも、一顧いっこしているすきもなかった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その工事で、大工、左官、土工、石工いしくなどが、大勢、城内へはいっていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十月には、碑の裏面に彫る「楠公賛なんこうさん」の文が、筆者の岡村元春おかむらもとはるからとどいたので、石屋の権三郎親方は、新たに京都からよんだ六人の石工いしくとくして、それを注連小屋しめごやのうちで、彫りにかからせた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうか。道理で……おまえのあの時の顔つきは怖ろしく真剣だった。いや、その後、ここへ来て石工いしく手伝いしているあいだも、その心が底にあるせいだろう、どこか違っているところがあった」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)