)” の例文
見上げると両側の山は切りいだように突っ立って、それに雑木ぞうき赭松あかまつが暗く茂っていますから、下からると空は帯のようなのです。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
市長は時として我臥床ふしどの傍に坐して、われに心を安んじて全快を待たんことを勸め、ロオザの遠からず來りて病をるべきを告げたり。
仰向あおむい蒼空あおぞらには、余残なごりの色も何時しか消えせて、今は一面の青海原、星さえ所斑ところまだらきらめでてんと交睫まばたきをするような真似まねをしている。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
藩主阿部正桓は四代前の不争斎正寧の病をむがために、東京に淹留してゐた。「正月元日。晴。夕微雨。御留守中に付、御祝儀御帳罷出。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
白い夢のように純白な姿は、まだ空間をすべり歩いているようで、わたしは何度も人家の暗い屋後を入ったほどだった。
ヒッポドロム (新字新仮名) / 室生犀星(著)
お職人が念のために、分け目をじっると、やっこ、いや、少年の助手が、肩から足の上まで刷毛はけを掛ける。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ことにこの辺りは川幅もひろくかつ差し潮の力も利けば、大潮の満ち来る勢に河も膨るゝかと見ゆる折柄、潮に乗りてきしり出づる玉兎のいと大にして光り花やかなるを
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
幼い慧心院僧都が、毎日の夕焼けを見、又年に再大いに、之をた二上山の落日である。今日も尚、高田の町から西に向って、当麻の村へ行くとすれば、日没の頃を択ぶがよい。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
既ニシテ夕陽林梢ニアリ、落霞飛鳧らっかひふ、垂柳疎松ノ間ニ閃閃せんせんタリ。長流ハ滾滾こんこんトシテ潮ハ満チ石ハ鳴ル。西ニ芙蓉ふようヲ仰ゲバ突兀万仞とっこつばんじん。東ニ波山ヲレバ翠鬟すいかん拭フガ如シ。マタ宇内ノ絶観ナリ。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
先生や先生の一家一門の所作しょさは、万人のつぶさる所、批評のまとであります。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
然して威令の行わるる所、既に前にて後に仰ぎ、聡明の及ぶ所、反って小を察して大をわする。貧者は獄に入りてわざわいを受け、富者は経を転じて罪を免る、これ傷弓しょうきゅうの鳥を取り、つね呑舟どんしゅうの魚を漏す。
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
木蓮の花ばかりなる空を
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仰ぎたりき——
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昔のアヌンチヤタは我が仰ぎしところ、我が新に醒めたる心の力もてぢんと欲せしところなるに、うらむらくは我を棄てゝ人に往けり。
想ふに杏春は生父の病を、其とぶらひを送り、故旧の援助を得て後事を営み、而る後京都を離れたことであらう。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
と云った、大島の知らず、かすりの羽織の袖を、居寄って振袖の紫に敷いてじったのであったが
眼を放って見渡すと、城下の町の一角が屋根は黒く、壁は白く、雑然ごたごたかたまって見える向うに、生れて以来十九年のあいだ、毎日仰ぎたお城の天守が遙に森の中に聳えている。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
両人ともに言葉なくたゞ平伏ひれふして拝謝をがみけるが、それより宝塔とこしなへに天に聳えて、西よりれば飛檐ひえん或時素月を吐き、東より望めば勾欄夕に紅日を呑んで、百有余年の今になるまで
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
數ふ。毎週一度日景ひかげて、とけいを進退すること四分一時。所謂佛蘭西時刻は羅馬の人常の歐羅巴時刻を指してしかいふなり。
「廿三日。晴。大殿様為御看病東京へ御発駕被遊候に付、為御機嫌伺朝六時出勤。五半時過早打に而御出被遊候。立造りふざう御供。」正寧の病をんがために、正桓が東京へ急行した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
金岡かなおかはぎの馬、飛騨ひだ工匠たくみりゅうまでもなく、電燈を消して、雪洞ぼんぼりの影に見参らす雛の顔は、実際、ればまたたきして、やがて打微笑うちほほえむ。人の悪い官女のじろりと横目で見るのがある。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
両人ともに言葉なくただ平伏ひれふして拝謝おがみけるが、それより宝塔とこしなえに天にそびえて、西よりれば飛檐ひえんある時素月を吐き、東より望めば勾欄こうらん夕べに紅日を呑んで、百有余年の今になるまで
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)