眼口めくち)” の例文
あとの敵の方が手剛てごわいと見たからである。何分にも芒が深いので、それが眼口めくちを打ち、手足に絡んで、思うように働くことが出来ない。
半七捕物帳:55 かむろ蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それがふくれると自然しぜん達磨だるま恰好かつかうになつて、好加減いゝかげんところ眼口めくちまですみいてあるのに宗助そうすけ感心かんしんした。其上そのうへ一度いちどいきれると、何時いつまでふくれてゐる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
をつと簑笠みのかさを吹とられ、つま帽子ばうしふきちぎられ、かみも吹みだされ、咄嗟あはやといふ眼口めくち襟袖えりそではさら也、すそへも雪を吹いれ、全身ぜんしんこゞえ呼吸こきうせま半身はんしんすでに雪にめられしが
おゝそれよりはひとことひとこと藤本ふぢもとのならば智惠ちゑしてくれんと、十八にちくれれちかく、ものいへば眼口めくちにうるさきはらひて竹村たけむらしげき龍華寺りうげじ庭先にはさきから信如しんによ部屋へやへのそりのそりと
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
叩きつけるような砂や小石を眼口めくちに打ち込まれて、度をうしなって暫く立ちすくんでいるうちに、ふたりの男のゆくえを見失ってしまった。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
顔をげて、中休なかやすみに、館内を見廻すと、流石さすがに図書館丈あつて静かなものである。しかも人が沢山ゐる。さうして向ふのはづれにゐる人のあたまが黒く見える。眼口めくちは判然しない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いよいよおかしく思って戸をあけると、狭い小屋の中から薄黒い煙りが一度にどっと噴き出して来て、一時は眼口めくちもあけられない程であった。
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
云いかけて、元八は眼口めくちを撲つ藪蚊を袖で払った。一生懸命の場合でも、ここらの名物の藪蚊には彼も辟易へきえきしたらしい。半七も群がって来る藪蚊を防ぐすべがなかった。
半七は身支度をして、亀吉と一緒に出てゆくと、師走二十九日のあかつきの風は、諸刃もろはの大きいつるぎぎ倒そうとするように吹き払って来た。ふたりは眼口めくちをふさいで転げるようにあるいた。
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
眼口めくちを明けていられないどころか、地に積む沙が膝を埋めるほどに深くなって来たので、みな恐れて我れちに逃げ出しましたが、逃げおくれた一人は又もや沙のなかへ生け埋めにされました。
重太郎の名を聞いてはいよい捨置すておかれぬ、巡査も人々も続いてその跡を追った。が、何分にも眼口めくちつ雪が烈しいので、人々は火事場のけむりせたように、殆ど東西の方角が付かなくなって来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)