白馬しろうま)” の例文
羊歯しだの生えた岩の下には、深い谷底がひらいてゐる。一匹の毒竜はその谷底に、白馬しろうままたがつた聖ヂヨオヂと、もう半日も戦つてゐる。
LOS CAPRICHOS (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
今までは白馬しろうまを着けた佐藤の馬車に澄まして乗っていたが、山へかかるや否や、例の泥だらけの掘出しものの中へ放り込まれてしまった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「今日は、桃の節句。……花世の白酒を飲みがてら、ひとつ、叔父貴をあおりに行こう。……馬の尻尾で、白馬しろうまにありつくか」
顎十郎捕物帳:03 都鳥 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
いで、戰場せんぢやうのぞときは、雜兵ざふひやういへど陣笠ぢんがさをいたゞく。峰入みねいり山伏やまぶしかひく。時節じせつがら、やり白馬しろうまといへば、モダンとかいふをんなでも金剛杖こんがうづゑがひととほり。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
馬は太鼓に歩調を合せ、殊にもさきのソン将軍の白馬しろうまは、歩くたんびにひざがぎちぎち音がして、ちやうどひやうしをとるやうだ。兵隊たちは軍歌をうたふ。
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
私は、初めて白馬しろうまに登って大町に帰って来た人が、対山たいざん館の三階で酔いつぶれたのを見た。学生を率いた中学校の先生が、部屋が無いというので怒号しているのを見た。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
いっさんにかけてきた黒装束くろしょうぞくは、白馬しろうまのそばへくるとぴッたり足をとめて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは雪の中に黒く馬の形を現わすもので、それは代掻しろかき馬といって、稲の植付け前の整地に使う馬である。白馬しろうま岳という名はそれから来たのだが、白は当字に過ぎず、代馬しろうまは黒い毛色なのである。
残雪の幻像 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
その火を見ると今までおとなしく王を乗せて来た白馬しろうまが驚いたと見えて、急に四足を突張って動かなくなったから、藍丸王は馬から降りて手綱たづなを放り出したまま、つかつかと焚火の側に近寄って来た。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「それでも、白馬しろうまたけをハクバと読むように……」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
てきおもむ白馬しろうま
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
雨をはらんだ風の中に、竜騎兵の士官を乗せた、アラビアだね白馬しろうまが一頭、あへぎ喘ぎ走つて行つた。と思ふと銃声が五六発、続けさまに街道かいだう寂寞せきばくを破つた。
LOS CAPRICHOS (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
するとにはかに白馬しろうまは、がたがたがたがたふるへ出しそれからからだ一面に、あせとけむりを噴き出した。プー先生はこはさうに、遠くへ行つてながめてゐる。
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
ある日——もう八月もなかばを過ぎていたと覚えている——慎太郎さんと東京のM呉服店のMさんと私とは、どこをどうしたものか、小林区署のお役人と四人で白馬しろうまを登っていた。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
が、そこはれいの神馬小屋しんめごやであったので、注連飾しめかざりをつけた白馬しろうまが、ふいの闖入者ちんにゅうしゃにおどろいて、ヒーンと一こえいなないたかと思うと、飛びこんできた蛾次郎の脾腹ひばらひづめでパッと蹴りかえした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「踏まれたら因果よ。白馬しろうまを飲むたたりだわな。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
或春の、僕は路ばたに立ち止つた馬車の側を通りかかつた。馬はほつそりした白馬しろうまだつた。僕はそこを通りながら、ちよつとこの馬の頸すぢに手を触れて見たい誘惑を感じた。
春の夜は (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
将軍はそれを手で制し、急いで馬にむちうつた。たびたびペたんと砂漠さばくに寝た、この有名な白馬しろうまは、こゝで最後の力を出し、がたがたがたがた鳴りながら、風より早くかけ出した。
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
ある日——もう八月もなかばを過ぎていたと覚えている——慎太郎さんと東京のM呉服店のMさんと私とは、どこをどうしたものか、小林区署のお役人と四人で白馬しろうまを登っていた。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
蓮華れんげじい鹿島槍かしまやり、五りゅう……とのびて、はるか北、白馬しろうまやりにいたるまで、折からの朝日を受けて桜色というか薔薇色というか、澄み切った空にクッキリと聳えているではないか。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
御屋形おやかたの空へ星が流れますやら、御庭の紅梅が時ならず一度に花を開きますやら、御厩おうまや白馬しろうま一夜いちやの内に黒くなりますやら、御池の水が見る間に干上ひあがって、こいふなが泥の中であえぎますやら
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
門一ぱいに当っている、油のような夕日の光の中に、老人のかぶったしゃの帽子や、土耳古トルコの女の金の耳環みみわや、白馬しろうまに飾った色糸の手綱たづなが、絶えず流れて行く容子ようすは、まるで画のような美しさです。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)