白蓮びゃくれん)” の例文
着物を洗う水の音がざぶざぶとのどかに聞こえて、隣の白蓮びゃくれんの美しく春の日に光るのが、なんとも言えぬ平和な趣をあたりにひろげる。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
国境の山、赤く、黄に、みねたけを重ねてただれた奥に、白蓮びゃくれんの花、玉のたなそこほどに白くそびえたのは、四時しじに雪を頂いて幾万年いくまんねん白山はくさんぢや。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
荒れはてているが、古ぶすまの白蓮びゃくれんには雲母きららのおもかげが残っていた。古風な院作りの窓から青い月影がしのびやかに洩れている。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
カラハシは勿論もちろんカラコキバシの省略で、あたかもツルウメモドキをツルモドキ、白木蓮びゃくもくれん白蓮びゃくれんと謂うのと同様の変化である。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そういう点で、いまは宮崎龍介みやざきりゅうすけ氏夫人であるもとの筑紫つくしの女王白蓮びゃくれん女史の燁子あきこさんは幸福だ。
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
向日葵ひまわり白蓮びゃくれんとが、血を含んで陽の中にふるえているようだ。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
伊藤白蓮びゃくれんのかけおちをノラの如しと書いている。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
白蓮びゃくれんらんとぞ思ふ僧のさま
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
彼の大きな姿がふさがるように厨子壇ずしだんの前に坐ったとき、障壁の紅蓮ぐれん白蓮びゃくれんも、ゆらめく仏灯も、ことごと瞋恚しんいほむらのごとく、その影を赤々とくまどった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戸張とばりを垂れた御廚子みずしわきに、造花つくりばな白蓮びゃくれんの、気高くおもかげ立つに、こうべを垂れて、引退ひきしりぞくこと二、三尺。心静かに四辺あたりを見た。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは、白蓮びゃくれんさんが失踪して間もなくで、世上の悪評の的になっているときだった。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
白蓮びゃくれんらんとぞ思ふ僧のさま
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「——あの蓮花が、なんで美しかろう。わしの眼には、紅蓮ぐれん白蓮びゃくれんも、無数の民の幽魂ゆうこんに見えてならない。一花、一花のろい、恨み、おののきふるえているような」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今夜の貴方あなたの御声というものは、実に白蓮びゃくれんの花に露がまろぶというのか、こうその渓川たにがわの水へ月が、映ると申そうか、いかにもたとえようのない、清い、澄んだ、冴々さえざえした
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『白孔雀』の巻末に、柳原白蓮びゃくれんさんが書いているから、すこし引いて見よう
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ホラ、ホラ、ホラ、下は紅蓮ぐれん白蓮びゃくれんの花ざかりですよ。観音様のオシッコみたいでさ。蓮の花や葉の上に、瑠璃白玉るりしらたまとなって、オシッコがすぐ成仏じょうぶつしているでしょ。ネ……お坊ッちゃま。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乃至ないし一草一木のうち、あるいは鬼神力宿り、あるいは観音力宿る。必ずしも白蓮びゃくれんに観音立ち給い、必ずしも紫陽花あじさいに鬼神隠るというではない。我が心の照応する所境によって変幻極りない。
火の国筑紫つくしの女王白蓮びゃくれんと、誇らかな名をよばれ、いまは、府下中野の町の、細い小路のかたわらに、低い垣根と、粗雑な建具とをもった小屋しょうおくに暮している燁子あきこさんのへやは、日差しは晴やかなうちだが
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
消え残る夕焼の雲のきれと、紅蓮ぐれん白蓮びゃくれん咲乱さきみだれたような眺望ながめをなさったそうな。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
次の間のとばりを引けば、当然、山僧が孤床こしょうの寝台は、五かい菩提ぼだいの夢、雲冷ややかなはずであるが、どうして、迦陵頻伽かりょうびんが刺繍ぬいふすま紅蓮ぐれん白蓮びゃくれん絵障屏えぶすまなまめかしく、巧雲は顔をたもとにくるんだまま
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雪のはだえ滴々てきてきたる水は白蓮びゃくれんの露をおびたるありさま。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)