発奮はずみ)” の例文
旧字:發奮
「こちらへ。」と無造作なように、今度は書見のまま声をかけたが、落着かれず、またひょいと目を上げると、その発奮はずみで目金が躍る。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
カタリといって、発奮はずみもなくひっくりかえって、軽く転がる。その次のをフッ、カタリとかえる。続いてフッ、カタリと下へ。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一人発奮はずみをくって、のめりかかったので、雪頽なだれを打ったが、それも、赤ら顔の手もまじって、三四人大革鞄にとりかかった。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とつい、衣紋えもんって、白い襟。髪艶やかに中腰になった処を、発奮はずみ一打ひとうち、トさっと烏の翼の影、笹を挙げて引被ひっかぶる。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
尾をつまんで、にょろりと引立ひったてると、青黒い背筋がうねって、びくりと鎌首をもたげる発奮はずみに、手術服という白いのをはおったのが、手を振って、飛上る。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とたんに鉄棒くうに躍ってこうべを目懸けてえい! と下す。さしったりと身を交せば、ねらはずれて発奮はずみを打ち路傍の岩を真二まっぷたつ。石鉄戛然かつぜん火花を散らしぬ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もとより将軍様に直訴する云うたほどですで、はじめから国手の身体に向うて手を挙ぎょうとは思わんのですれど、ものは発奮はずみだで、かっとしたでな。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鉄道馬車の線路を横に切れようとする発奮はずみに、荷車へ突当って、片一方の輪をこわしてしまって、投出されさ。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二階もまだ下り切るまいと思うのに、看護婦が、ばたばたせわしく引返して、発奮はずみに突込むように顔を出して
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先刻さっき口を指したまま、うろこでもありそうな汚い胸のあたりへ、ふらりと釣っていた手が動いて、ハタと横を払うと、発奮はずみか、さえか、折敷ぐるみ、バッタリ落ちて、昔々
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
発奮はずみをくらい、婆は尻餅をついて、熟柿じゅくしのごとくぐしゃりとなったが、むっくと起き、向をかえると人形町通のかたへ一文字に駆け出した、且つ走り、且つ声を絞って
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
直ぐにも打縛ふんじばりでもするように、お前、真剣しんけんになって、明白あかりを立てる立てるッて言わあ。勿論、何だ、御用だなんておどかしたには威しましたさ、そりゃ発奮はずみというもんだ。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
晩のとまりはどこだって聞きますから、向うの峰の日脚を仰向あおむいて、下の温泉だと云いますとね、双葉屋の女中だと、ここで姉さんが名を言って、お世話しましょうと、きつい発奮はずみさ。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と焦って、おさえて云い云い、早や飛下りそうにしつつも駆戻る発奮はずみにずかずかと引摺ひきずられるように町の角を曲って、やっと下立った処は、もう火の番を過ぎて、お竹蔵の前であった。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ドンと落ちると、盆は、ハッと持直そうとする手に引かれて、俊吉の分もさらった茶碗が対。吸子きびしょも共に発奮はずみを打ってお染は肩から胸、両膝かけて、ざっと、ありたけの茶を浴びたのである。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お稲さんは黙って俯向うつむいていたんですって。左挿しに、毛筋を通して銀の平打ひらうちを挿込んだ時、先が突刺つっささりやしないかと思った。はっと髪結さんが抜戻した発奮はずみで、飛石へカチリと落ちました。……
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とんと打入れる発奮はずみをくッて、腰も据らず、仰向あおむけひっくりかえることがある、ええだらしがない、尻から焼火箸やけひばしを刺通して、畳のへり突立つッたててやろう、転ばない呪禁まじないにと、陰では口汚くののしられて
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
話した発奮はずみに、あたかもこの八畳と次の長六畳との仕切が柱で、ずッと壁で、壁と壁との間が階子段はしごだん向合むかいあわせに欞子窓れんじまどのように見える、が、直ぐに隣家となりの車屋の屋根へ続いた物干。一跨ひとまたぎで出られる。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仕方を見せて見物を泣かせる目算つもりのあてはずれ、発奮はずみで活歴を遣って退け、手痍てきず少々負うたれば、破傷風にならぬようにと、太鼓大の膏薬こうやくを飯粒にて糊附はりつけしが、歩行あるくたびに腹筋はらすじよれて、びっこき曳き
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この発奮はずみ
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)