異名いみょう)” の例文
天地と云い山川さんせんと云い日月じつげつと云い星辰せいしんと云うも皆自己の異名いみょうに過ぎぬ。自己をいて他に研究すべき事項は誰人たれびとにも見出みいだし得ぬ訳だ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
常に、村の将軍家と異名いみょうされるほど、見識の高い御隠家様自身が、かくも、身をへりくだって頼むというのは只事とも思われません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでだれいうとなく、為朝ためとものことを鎮西八郎ちんぜいはちろうぶようになりました。鎮西ちんぜいというのは西にしくにということで、九州きゅうしゅう異名いみょうでございます。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
動物役者という異名いみょうをさえ取っていたので、今さら虎の役を振られたとて、それが何の不思議であろう。けれども、ちょッと悲しく感じた。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
蚊喰い鳥という異名いみょうの通り、かれらは蚊を追っているのであろう。それをまた追いながら、子供たちは口々に叫ぶのである。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
仏の異名いみょうを受けて命冥加いのちみょうがにありつき、こうして四十の坂を越しても、ともかく、ぴんぴんとして今日が送れるというのは
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
五十吉いそきちといい今は西洞院の紙問屋の番頭だが、もとは灰吹きの五十吉と異名いみょうをとったごろつきでありながら、寺田屋のむこはいずれおれだというような顔がしゃくだと
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
次男の蟹は小説家になった。勿論もちろん小説家のことだから、女にれるほかは何もしない。ただ父蟹の一生を例に、善は悪の異名いみょうであるなどと、加減かげんな皮肉を並べている。
猿蟹合戦 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ガタガタ慶吉というのは、ちょいとおどかしてもガタガタ顫えるからの異名いみょうだったと言いますぜ
たたけば応ずるつづみ異名いみょうをとっているだけに、いささか小才のきく与吉、どうねまわして何を思いついたものか、二こと三ことささやくと、左膳はたちまち与吉の進言をいれて
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
好文木こうぶんぼくとは若殿様を指した言葉ではないかと存じますと申すは、お下屋敷を梅の御殿と申しますからの事で、梅の異名いみょうを好文木と申せば、若殿紋之丞様の事ではないかと存じます
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
誰言うとなく奉ったのが即ちこの、世にも類稀たぐいまれなぐずり松平の異名いみょうです。
ところが、クリスチャン・ネームのミハイルの愛称も矢張りミーシャであるから、ここでは熊に似たソバケーヴィッチが然も熊の異名いみょうに縁のある名前を持っているのでチチコフが感心するのだ。
道徳とは有道ゆうどうの士をして道を行わしめんがために、吾人がこれに対して与うる自由の異名いみょうである。この大道徳を解せざるものを俗人と云う。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どこか殺気のただよう眉間みけんは、ばくちやつれのせいだけでなく、異名いみょうも、短命二郎といわれているほどだから、独自な人相というものだろう。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとつは九郎右衛門という図太い男の首、他のひとつはお八重という美しい女の首で、先に処刑しおきを受けた男は赤格子あかごうしという異名いみょうを取った海賊であった。
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この野郎が墨染という抹香まっこうくさい異名いみょうをとった訳を申し上げないとお分りになりますまいが、何も深い理窟のあるんではございません、異名だの綽名あだなだのと申すものは御存じの通り
旗本退屈男はたもとたいくつおとこ異名いみょうをとった早乙女主水之介さおとめもんどのすけだったからです。
国の異名いみょうにひとしき親方
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もっとも逆上は気違の異名いみょうで、気違にならないと家業かぎょうが立ち行かんとあっては世間体せけんていが悪いから、彼等の仲間では逆上を呼ぶに逆上の名をもってしない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼を呼びとめたのは、中山府の人で、片目のみにくいところから、鬼臉児きれんじ異名いみょうのある、杜興とこうという人間だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが男を求めようとするために、弁天様の嫉妬の怒りに触れて、相手の男はことごとく亡ぼされてしまうのであるというので、弁天娘の美しそうな異名いみょうも彼女に取っては恐ろしいのろいの名であった。
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
張は、李俊の義兄弟のひとりで、その名はおう異名いみょう船火児せんかじ——生れは江中こうちゅうの島——小孤山しょうこざんの産だという。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
非凡は気狂の異名いみょうであるから、まずこれも同類にしておいて構わない。それからと、——まだあるある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
場所は「山荘にて」と断って、もよおしのあるべき日取をその傍に書き添えた。余はすぐ裸連の何人なんびとなるかをさとり得た。裸連とは余の隣座敷にいる泊り客の自撰にかかる異名いみょうである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
青鷺組というのは、池田家の秘密隊——つまり隠密組おんみつぐみ異名いみょうである。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
村夫子はなるほど猫も杓子しゃくしも同じ人間じゃのにことさらに哲人セージなどと異名いみょうをつけるのは、あれは鳥じゃと渾名あだなすると同じようなものだのう。人間はやはり当り前の人間でかりそうなものだのに。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天城四郎という異名いみょうで、怪力と大盗のわざを誇りにして、世人を怖れしめていたころの自分が——その当時の自分のしたことの怖ろしさ浅ましさが——いまだに頭のすみに絶えず悔いているのであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
異名いみょう日本左衛門こと無宿むしゅく浜島庄兵衛、年二十七歳
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呂宋兵衛というのは、仲間なかま異名いみょうである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)