灰神楽はいかぐら)” の例文
ぱっとあがった灰神楽はいかぐら、富五郎が蹴った煙草盆を逃げて跳り上った釘抜藤吉、足の開きがそのままかなってお玉が池免許直伝は車返くるまがえしの構え。
灰神楽はいかぐらがドッと渦巻き起って部屋中が真白になった。思わず飛退とびのいた巡査たちが、気が付いた次の瞬間にはモウ銀次と小女の姿が部長室から消え失せていた。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
といいながら顛覆ひっくりかえしましたから、ばっと灰神楽はいかぐらあがりまして、真暗まっくらになりました。なれども角力取大様おおようなもので、胡坐あぐらをかいたなり立上りも致しません。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
税務署の人はその通りにしましたが、辺り一面灰神楽はいかぐらになったので、私は布切れで上り口をはたきました。
「——でしょう、親分。一と目千両と言われた江戸一番の——いや日本一の綺麗な顔へ、たぎり返る鉄瓶と灰神楽はいかぐらと、真っ赤になった炭火の雨が降ったんですぜ」
今の騒ぎで鉄瓶てつびんがくつがえり、大きなきり角火鉢かくひばちからは、噴火山の様に灰神楽はいかぐらが立昇って、それが拳銃ピストルの煙と一緒に、まるで濃霧の様に部屋の中をとじ込めていた。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その沸騰のあわが火の上に落ちて、そこで烈しいちんぷんかんぷんが起り、灰神楽はいかぐらを立てしめることは、はなはだ不体裁でもあり、不衛生でもあり、第一、またその灰神楽に
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なんとかいう落語家が事偶ことたまにやったものだというのに、灰神楽はいかぐらという奴があったそうである。
東奥異聞 (新字新仮名) / 佐々木喜善(著)
別れた、女も別れる言うてますとうまく親父を欺して貰うだけのものはもろたら、あとは廃嫡でも灰神楽はいかぐらでも、その金で気楽な商売でもやって二人末永すえなご共白髪ともしらがまで暮そうやないか。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
暴風あらしの吹いた後のように、帳場格子は折れ、硯箱はひっくりかえり、薬罐は灰神楽はいかぐらをあげている店の間を、グルグル廻りながら(娘は?)と佐五衛門は、そのことばかりを思った。
猿ヶ京片耳伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とうのむかし、お別れになって、灰神楽はいかぐら吹溜ふきたまったような、手づくねの蝋型ろうがたに指のあとの波の形のあらわれたのを、細工盤に載せたのを、半分閉じた目でじっと見まもって、ただ手は冴えても
もはや、鋭利えいりきりの先をもってまぶたかれても、まばたきをせぬまでになっていた。不意にが目に飛入ろうとも、目の前に突然とつぜん灰神楽はいかぐらが立とうとも、彼は決して目をパチつかせない。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
アンペラをつけた馬が、尾をバサリと振るたびに、灰神楽はいかぐらをあげたように、黒いのが舞いあがる、この茶屋は車宿をしているが、蚕もやるらしく、桑の葉が座敷一杯に散らかって、店頭には駄菓子
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
眼つぶしを食ってひるむところへ、半七は透かさず飛び込んでその刃物をたたき落とした。葱鮪の鍋の引っくり返った灰神楽はいかぐらのなかで豊吉はもろくも縄にかかって、町内の自身番へ引っ立てられた。
半七捕物帳:28 雪達磨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし——そのことばと一しょに、目のまえののなかへ、ひとりの試合役人しあいやくにんさかとんぼを打って灰神楽はいかぐらをあげたのを見ると、かれはけつまずきそうになって、狩屋建かりやだての小屋のうらげだしていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ニュームの凸凹のやかんに、湯は火鉢に噴きこぼれてゐたが、灰が貝殻のやうに固いせゐか、灰神楽はいかぐらもあがらない。ゆき子は、湯煙を眺めながら、その部屋の佗しさを食ひつくやうにして眺めてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
かわしながら、左膳がとっさに足にかけた煙草盆の灰神楽はいかぐらで、左膳自身は早くも壁を背負って立った猪突の陣、独眼火をふいて疾呼しっこした。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこで、一座の連中はたちまち、以前の通りに席に戻って、身にふりかかる灰神楽はいかぐらを払おうともせずに、再び座を正して、相変らず弾じつづけている木崎原の一曲に耳を傾けはじめました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まつそば土瓶どびんをひつくりかへして灰神楽はいかぐらげたから、けろ、粗忽そこつをするなつて他人ひとさまのまへだから小言こごとはうぢやアねえか、すると彼奴あいつおれにむかツぱらつて、よく小言こごとをいふ
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
その瞬間に、いながらにして跳ね返った左膳は、煙草盆たばこぼんを蹴倒しながら後ろの壁にすり立って濛々もうもうたる灰神楽はいかぐらのなかに左腕の乾雲を振りかぶった左膳の姿が生き不動のように見えた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
燃えさしの火力にあおられて、米友の不在中に沸騰をはじめ、それが下の炉炭中へたぎり落ちて灰神楽はいかぐらを始めたのですから、このことは人の生命に及ぼすほどのことではなかったのですが
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)