湯治たうぢ)” の例文
湯治たうぢ幾日いくにち往復わうふく旅錢りよせんと、切詰きりつめた懷中ふところだし、あひりませうことならば、のうちに修善寺しゆぜんじまで引返ひきかへして、一旅籠ひとはたごかすりたい。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
路用から湯治たうぢの雜用を併せて三兩二分ばかり、あとに殘つたのは、煙草入に女房のお靜が入れてくれた、たしなみの小粒こつぶが三つだけです。
これと同じ内の玉龍たまりようといふお酌と、新橋のお酌の若菜といふのと、それから梅龍の内の女中のお富といふのと、斯う五人で箱根へ湯治たうぢに行つてゐたのである。
梅龍の話 (旧字旧仮名) / 小山内薫(著)
つれ信州しんしう湯治たうぢに參りしが右妻儀は五歳の時人に勾引かどわかされ江戸へまゐりしにはだの守りぶくろに生國は越後高田領のよし書付かきつけ有しゆゑおや對面たいめん致させんとて來りし所途中とちうにて妻を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
旅空の正月とは云つても、時間と金が、ありあまつて湯治たうぢに来てゐる客ではないだけに、二人には、おめでたうと云ひあひながらも、わびしく、つゝましい感情が、心に流れてゐる。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
父は五つになる僕を背負ひ、母は入用いりようの荷物を負うて、青根あをね温泉に湯治たうぢに行つたことがある。青根温泉は蔵王山を越えて行くことも出来るが、そのふもとを縫うて迂回うくわいして行くことも出来る。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
前様めえさま湯治たうぢにござつて、奥様おくさま行方ゆきがたれなくつたは、つひごろことではねえだか、坊様ばうさま何処どこいて、奥様おくさまことづけをたゞがの。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「まだ四十兩殘るが、これはお靜と俺が湯治たうぢに行つて、溜めた店賃たなちんを拂つて、殘つたら大福餅のあばひでもするか」
買馴染かひなじみ其空せみは五歳の時人に勾引かどはかされ揚屋町善右衞門口入にて神田かんだ小柳町松五郎が姪成めひなりとて三浦屋へ賣込しが年季明ねんきあけにて源次郎の妻に致し其主人へねがひ湯治たうぢひまもらひ信州より越後へじつおや
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なにかな、御身おみ遠方ゑんぱうから、近頃ちかごろ双六すごろく温泉をんせんへ、夫婦ふうふづれで湯治たうぢて、不図ふと山道やまみち内儀ないぎ行衛ゆくゑうしなひ、半狂乱はんきやうらんさがしてござる御仁ごじんかな。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「親分が又腕を組んだ、この雙六すごろくも上がりが近いぜ。ね、お靜さん——おつと姐御あねご、この秋は少し遠つ走りして、湯治たうぢにでも行かうぢやありませんか」
「御冗談で——三月になつたら箱根へ湯治たうぢに行く約束はしましたが、その話を小耳に挾んで、飛んだことを言ひ觸らした者があるのでせう。本當に奉公人達といふものは——」
かつしやるな。山裾やますその、双六温泉すごろくをんせんへ、湯治たうぢさつせえたひとだんべいの。」
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「箱根へ湯治たうぢに行つた知合ひからお土産みやげに貰つたのだよ、昔々、朝鮮の國から、日本の朝廷に御使者が來た時、持つて來た寶の箱に一八と書いてあつた、叩けば開かれる——といふなぞだつたと物の本に書いてあるさうだよ」
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)